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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第39章
土曜日の昼前としてはスムーズに、車列は流れていた。
渋谷ICから首都高に乗ったBMWは、湾岸線を通り1時間ほど走って逗子ICで降りた。
「逗子……?」
そう呟いたヴィヴィの視界が開け、道の先に水平線が現れる。
「あ……っ!」
助手席から身を乗り出して声を発したヴィヴィは、瞳を輝かせて運転中の匠海を見つめた。
「海だぁ……!」
ヴィヴィの顔を見ずともその声だけで妹が喜んでいるのを察した匠海が、サングラスの下の瞳を細める。
しばらく走った車は、駐車場へと停められた。ヴィヴィは自分でドアを開けると、外へと飛び出る。
「海だ~っ!」
今度は大きな声でそう言ったヴィヴィは、体の横で両手を広げて深呼吸した。少し湿度を含んだ潮の匂いが、気道を通って全身に行き渡る感じがする。
扉を閉める音がして、匠海が傍に寄ってくる。
「この一色海岸って、昔よく来てたんだけど、覚えてるか?」
茶色のサングラスを外した匠海が、インナーに引っかけながらヴィヴィに尋ねてくる。
「うん! 確か最後に来たのは、ヴィヴィ達が中等部1年の頃だったかな?」
確かその翌年からノービスからジュニアに上がってしまった双子は、多忙で夏休みも自由に取れなかった筈。
振り返って元気にそう返せば、匠海が眩しそうに瞳を細めていた。
「お兄ちゃん、早く行こう!」
ヴィヴィは両手で匠海の二の腕を掴むと、海岸線のほうへ向かってずんずんと歩き出した。
「はいはい」
匠海はそう言いながらヴィヴィに従って着いて行く。
アスファルトから砂浜へと降りた途端、サラサラの砂がウェッジソールのサンダルを履いたヴィヴィの足を包んできた。
「あはは、歩きにく~い!」
テンション高めのヴィヴィは、砂に沈んで足を取られる砂浜にも楽しそうな声を上げる。
「転ぶなよ~」
自分から手を放して、きゃっきゃ、きゃっきゃと明るい声を上げて先を行くヴィヴィを、匠海が後ろから注意する。
まだ4月の海岸には人影はまばらだった。
波打ち際まで来たヴィヴィは、両手を広げて再度深呼吸する。
海の匂い。
太陽の匂い。
それらを体いっぱいに取り入れると、指先にまで元気が漲ってくる。