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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第39章
「海だ~~っ!!」
もう一度そう言ってう~んと伸びをするヴィヴィに、その隣に立った匠海が
「心も躰も充たされる『イイ所』――だろ?」
と、笑って見下ろしてくる。
その表情は少し得意げで、悪戯を共有した同志と喜びを分かち合うようで。
(お兄ちゃん、可愛い……)
ヴィヴィは心の中でそう思いながら、満面の笑顔で「うん!」と大きく頷いた。
エメラルドグリーンの水面が、青い空の下でキラキラと輝いている。
そして絶え間なく打ち寄せてくる、白く泡立った波。
それは底の厚いサンダルのつま先まで、ひたひたと迫ってくる。
ヴィヴィは躊躇なくサンダルを脱ぎ捨てると、波に攫われない様にぽいっと離れたところに投げた。
「ひぁっ! つ、冷たい~っ」
そりゃあそうだ。まだ4月半ばなのだから。
最初は水温の冷たさに爪先立ちだったヴィヴィだったが、徐々にそれにも慣れ始めたようで、寄せては返す波間で楽しそうに遊んでいた。
匠海は近くに打ち上げられた流木に腰を掛けると、その様子を眺めていた。
「お兄ちゃんもおいでよ!」
ヴィヴィが手招きして匠海を誘うが、「俺、そんなに『お子ちゃま』じゃないし」とつれなく断られた。
「ちぇ~」
そう可愛い声を上げたヴィヴィは、それでも楽しそうに爪先立ちでぴょんぴょん跳ねながら、波と戯れていた。
「なんか、踊ってるみたい……」
「ん~?」
匠海がぼそりと呟いた言葉に、ヴィヴィは背を向けたままリラックスした声を上げる。
「ヴィヴィ、最近、バレエのレッスン受けてる?」
「バレエ? 国別終わってから、また行きだしたよ~」
ヴィヴィはその場で右脚前5番ポジションを取ると、ジャンプし空中で両足を打ち合わせてレースを編むようにプティ・バットゥリーを飛ぶ。
ふわりと持ち上げられた両腕はまるで潮風に操られるように滑らかに動く。
上半身を前に倒し、後ろ足を高くあげるアラベスク・パンシェは、関節を感じさせないほど美しい。
「プリゼ・ヴォレ」
ヴィヴィはそう呟くと片足で踏み切って跳び、空中で両足を5番ポジションで打ち合わせ、打ち合わせた時の5番の足と前後逆の5番プリエに着地する。
その度にパシャパシャと水面を叩く音が、潮騒に乗って辺りに響く。