この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第39章
まるで波と戯れるように足を運ぶヴィヴィの唇からは、クスクスと楽しげな笑みが零れる。
跳ね上がる水飛沫が、白いヴィヴィの細足の周りで日光を受けてキラキラと輝く。
眩しそうに瞳を細めた匠海は、小さく苦笑した。
「ヴィヴィ、ピルエットして」
『旋回』というその名の通り、その場で両足で踏み切って、片足のポワントやドゥミ・ポワントに立ってまわるパ(動き)を繰り返す。その度に、背中のリボンがひらひらと舞う。
くるくると回り続けていたヴィヴィだったが、
「ふふ、砂に沈んじゃう!」
と明るい声を上げて止まった。
大観衆のオーディエンスにする様に、恭しく匠海に礼をして見せたヴィヴィに、立ち上がった匠海が拍手を送った。
「ひゃあ、ドロドロ!」
ヴィヴィが驚いたように、白い足にはそこかしこに水を含んだ砂がこびり付いていた。
冷たい水を我慢して膝位の深さの所まで海に入ると、掌で汚れを洗い流す。
「うわ、冷たっ」
後ろで匠海がそう呟くのが聞こえて、ヴィヴィが振り返る。
先程まで海に入ることを拒否していた匠海が、細身のカーゴパンツの裾をくるぶしまで織り上げ、波打ち際で波と格闘していた。
ヴィヴィは瞳を細めると、そちらへ向かって両手で海水をかける真似をする。
「わっ、こら、やめろ!」
匠海が焦ってヴィヴィを制止する。その様子が可笑しくて、ヴィヴィは声を上げて笑った。
「ヴィヴィ、こっちおいで」
そう言って波打ち際で匠海がヴィヴィを手招きする。
「なに~?」
ヴィヴィはジャブジャブと水を掻き分け、匠海の元へと戻った。不思議そうに背の高い匠海を見上げると、その目の前に流木がかざされた。
「俺、犬飼いたいんだよね」
匠海はそう言って、手の中の流木を弄ぶ。波に洗われ樹皮が剥がれたそれは、肌色でつるつるとして気持ちよさそうだった。
「そうなの? 初耳かも」
ヴィヴィはそう返して首を傾げる。そんな妹の前で、
「ほ~ら、ヴィヴィ、取っておいで!」
大きく振りかぶった匠海は、手の中の流木を浅瀬に向けて放り投げた。
そう、まるで飼い犬を躾けるかのごとく――。