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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第39章        

 まるで波と戯れるように足を運ぶヴィヴィの唇からは、クスクスと楽しげな笑みが零れる。

 跳ね上がる水飛沫が、白いヴィヴィの細足の周りで日光を受けてキラキラと輝く。

 眩しそうに瞳を細めた匠海は、小さく苦笑した。

「ヴィヴィ、ピルエットして」

 『旋回』というその名の通り、その場で両足で踏み切って、片足のポワントやドゥミ・ポワントに立ってまわるパ(動き)を繰り返す。その度に、背中のリボンがひらひらと舞う。

 くるくると回り続けていたヴィヴィだったが、

「ふふ、砂に沈んじゃう!」

 と明るい声を上げて止まった。

 大観衆のオーディエンスにする様に、恭しく匠海に礼をして見せたヴィヴィに、立ち上がった匠海が拍手を送った。

「ひゃあ、ドロドロ!」

 ヴィヴィが驚いたように、白い足にはそこかしこに水を含んだ砂がこびり付いていた。

 冷たい水を我慢して膝位の深さの所まで海に入ると、掌で汚れを洗い流す。

「うわ、冷たっ」

 後ろで匠海がそう呟くのが聞こえて、ヴィヴィが振り返る。

 先程まで海に入ることを拒否していた匠海が、細身のカーゴパンツの裾をくるぶしまで織り上げ、波打ち際で波と格闘していた。

 ヴィヴィは瞳を細めると、そちらへ向かって両手で海水をかける真似をする。

「わっ、こら、やめろ!」

 匠海が焦ってヴィヴィを制止する。その様子が可笑しくて、ヴィヴィは声を上げて笑った。

「ヴィヴィ、こっちおいで」

 そう言って波打ち際で匠海がヴィヴィを手招きする。

「なに~?」

 ヴィヴィはジャブジャブと水を掻き分け、匠海の元へと戻った。不思議そうに背の高い匠海を見上げると、その目の前に流木がかざされた。

「俺、犬飼いたいんだよね」

 匠海はそう言って、手の中の流木を弄ぶ。波に洗われ樹皮が剥がれたそれは、肌色でつるつるとして気持ちよさそうだった。

「そうなの? 初耳かも」

 ヴィヴィはそう返して首を傾げる。そんな妹の前で、

「ほ~ら、ヴィヴィ、取っておいで!」

 大きく振りかぶった匠海は、手の中の流木を浅瀬に向けて放り投げた。

 そう、まるで飼い犬を躾けるかのごとく――。

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