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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第39章        

「なっ……! ヴィヴィ、犬じゃないもんっ!!」

 当然のようにヴィヴィはそう主張するが、匠海はしれっと、

「いいじゃないか、俺の心が充たされるんだから」

 と言い返した。

「へ……っ!?」

 ヴィヴィはそう間抜けな声を上げた。

(そ、そりゃあ、ヴィヴィだけでなく、お兄ちゃんにも、躰も心も充たされてほしいけれども……)

「ほら、どんどん沖に流されていっちゃう」

 ヴィヴィの気持ちなどつゆ知らず、匠海は目の上で片手を翳すとそう忠告してくる。

「……取ってきたら、今度はヴィヴィの言うこと、聞いてくれる?」

 じと目で見上げながらヴィヴィはそう呟くが、匠海は

「いつも聞いてると思うけど」

 と取り合おうとしない。

「もうっ! 聞くの? 聞かないの?」

 ヴィヴィが唇を尖らせてそう迫ると、匠海は両手を上にあげてオーバーに降参のポーズをとった。

「分かった、聞きますよ、我儘お嬢様」

「よ~し!」

 くるりと踵を返し、ざぶざぶと音を立てながら海の中に入っていくヴィヴィ。

 先程まで目の前にあった流木は、どんどんと沖に流されていっている。けれどショートパンツのヴィヴィは、膝上までの深さでも余裕だった。

「…………」

 まさか匠海は自分にこんなことをさせたくて、あれだけミニスカートを押していたのだろうかと勘繰りたくもなる。
 
 やっと流木を拾ったヴィヴィは、引き返そうと岸のほうを振り返った。

 その視線の先では、匠海がまるで犬にするように腰を屈めて両手を広げ、おいでおいでをしている。

「…………」

(そんなに犬飼いたかったなら、飼えばよかったのに……)

 兄妹の母ジュリアンは猫アレルギーだが、犬は大丈夫だったはず。そう頭の中で思いながら引き返そうとしたヴィヴィの足裏が、なにかふにゃりとしたものを捉えた。

「…………?」

 ヴィヴィはぱっと視線を下ろし、透明度の高い水中を覗く。そこにあったのは黒くて長い物体だった。

(そうだ……!)

 ヴィヴィは俯きながらそれを拾い上げ体の後ろに隠すと、にやりと嗤った。

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