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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第39章        

「えっ! ちょ、お兄ちゃんっ!?」

 ヴィヴィが驚愕の声を上げるが、匠海は歩を止めなかった。くるぶしまでしか織り上げていなかった裾は、すでに海水に浸かっている。

「何が天誅だ! この悪戯っ子! 俺と同じ目に合わせてやる!」

 そう恐ろしい発言をした匠海の肩の上で、ヴィヴィは「ひっ!」と悲鳴を上げた。

 もう匠海の膝上位の深さなのに、そんなところに放り出されたら、下だけでなく全身びしょ濡れになってしまう。

 ヴィヴィには家から着てきたワンピースという着替えがあるとはいえ、下着の替えはなかった。

「い~や~っ!!」

 ヴィヴィは自由になる膝から下だけをバタバタと動かし、両腕で匠海の背中をポスポス殴った。

「こら暴れるな、落っことすぞ?」

 そう言われ、ヴィヴィはぴたと硬直する。

「もう、こんな悪戯しないか?」

 匠海の質問に、ヴィヴィはうんうんと大きく頷く。

「俺の言うことを聞く、良い子になれるか?」

「な、なりますっ!」

 素直にそう答えたヴィヴィに、ようやく匠海が立ち止ってくれた。

「本当に? 嘘つきはお尻ペンペンするよ?」

「お、お尻ペンペンっ!?」

(わ、私、一応、花も恥じらう女子高校生なんですけどっ!?)

 匠海の信じられない言葉に、ヴィヴィは真っ赤になった。

(ていうか、太もも、撫でまわさないでっ!)

 無意識にか、挑発してか、匠海が手を添えていたヴィヴィの太ももの裏側をさわさわと、こそばす様に撫で上げている。

「わ、分かったから……! お、お尻イヤっ!!」

 そう言って泣きべそのような声を上げたヴィヴィに、匠海はぷっと吹き出すと元来た道を戻り始めた。

 踝までの深さに来てようやく下してくれた匠海から、ヴィヴィはとっさに距離をとる。

「お、お兄ちゃんの、えっちっ!!」

 小さな顔を真っ赤にし涙を浮かべて今日2回目のその抗議するヴィヴィを、匠海は不遜に笑い飛ばした。

「あ~あ……ズボン、びしょ濡れ……」

 濡れたズボンが気持ち悪いのか、匠海は嫌そうな声を上げて砂浜へと上がっていく。

「ご、ごめん……」

 今更ながらにして、あまり先のことを考えていなかったヴィヴィは、しゅんとして後に続く。

「で……? お願いって何?」

 背中を向けたままの匠海が、ヴィヴィにそう尋ねてくる。

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