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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第39章        

「え?」

「飼い犬ごっこをしたら、言う事聞くって約束だったろ?」

「あ……」

 やっと匠海の言っていることが分かり、ヴィヴィははたと止まる。

 あの時はそんな事を口走ったが、別に匠海に強請ることもない。

 その時、

 ぐぅ~~。

 波の音の合間に、ヴィヴィの真っ平らなお腹から腹の虫が鳴き声を上げた。

「…………っ!?」

 咄嗟に両腕で自分のお腹を隠したヴィヴィだったが、匠海が「あははは」と笑い出す。

「まったく、お腹の虫まで奔放だな、ヴィヴィは!」

「お、お恥ずかしい……」

 本当に恥ずかしくてそう言い俯いたヴィヴィの金色の頭を、匠海がぽんと撫でる。

「じゃあ、ヴィヴィのお願い事は『早くランチ食べさせろ!』でいい?」

「う、うん」

 優しい匠海のその言葉に、ヴィヴィは恐る恐る顔をあげて頷く。しかし、

「こんだけ泥だらけだと、どこのお店にも入れないんじゃ?」

 眉をハの字にしてそう言ったヴィヴィだったが、匠海は「大丈夫」と言って笑って見せた。

 その後、海水浴場に併設されている水道とシャワーで砂と塩水を洗い落とした二人は、靴を履いて車へと戻った。

 お尻までずぶ濡れの匠海はどうするのだろうと心配だったヴィヴィだったが、自分のキャメルのカーディガンを脱いでシートに掛けるとその上から運転席に収まった。

「どこへ行くの?」

「内緒」

 匠海は車を発進させ、海沿いの公道を走っていく。5分ほど走ったところで小さな小高い丘を登り始めた。

「あれ、もしかして、ここ……」

「そう。ヴィヴィも何度か来たことあるだろう?」

 うっそうと茂った林の中に、一軒のモダンな建物が現れた。

 外装は打ちっぱなしのコンクリートと大きなガラスの窓。

 双子が小学生の頃、「海行きたい」と夏休みの間中言い張るので、毎回連れて行くのが面倒になった父が建てた別荘だった。

 車寄せにBMWが停められ、ヴィヴィは自分で外に出た。

「懐かし~……」

 2階建てで横に細長い建物は、有名なデザイナーに依頼して作らせたもので、もう築8年位のはずだが素敵な建物だった。

「ヴィヴィ、鍵開けて。番号は――751639」

 ヴィヴィは匠海に言われた通り、タッチパネル式の鍵に番号を打ち込みENTERを押した。小さな音を立ててロックが解除される。

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