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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第39章
「ヴィヴィ、他に手伝えることある?」
「じゃあ、トマトとロメインレタス洗って?」
にんにくを刻んでいる匠海は、ヴィヴィに視線でトマトとレタスを指してそう指示した。
「は~い」
ヴィヴィは袖を捲って手を洗うと、手近なボールに水を張り、ビュビュッと食器用洗剤を投入する。
「ヴィ、ヴィクトリアさん……?」
「ん~?」
ヴィヴィの手元を覗き込む匠海に、そう能天気な返事を返す。
「何、してるの?」
「ん~? お野菜洗うの」
そう報告したヴィヴィは、トマトを掴んでそこに投入しようとする。
「いやいやいやいや……水洗いでいいんだよ?」
「え!? そうなの?」
隣の匠海を見上げたヴィヴィは、目を瞬かせて聞き返す。
「……もしかして、野菜、洗ったことないのか?」
「ないよ~」
「ないんだ……」
何故か茫然とそう返してくる匠海を尻目に、ヴィヴィはボールに作ってしまった洗剤薄め液を捨てる。そして綺麗にすすいだ中に真水とトマトを放り込んだ。
「ヴィヴィ、家庭科実習ではいっつも食器洗い担当なの。皆が作ってくれるの」
自信満々にそう説明するヴィヴィに、匠海が
「へ、へえ~」
と引き攣った笑いを零す。
「じゃあ、もしかして、トマトも切ったことない?」
「ないけれど、切れるよ~」
「じゃ、今洗ってるの、切ってくれる?」
「分かった~」
「くし切りにしようかな」
「くし切りね? OK~」
コンロの前に移動した匠海の横でヴィヴィはまな板にトマトを置き、手を拭いてその前に立つ。
ナイフホルダーから一番大きな肉切包丁を迷わず選んだヴィヴィは、それをか細い両手で持ち、頭の上に振り上げる。
ヴィヴィの可愛らしい顔が瞬時に般若のように変貌したかと思うと、
「ていっ!」
っという変な掛け声と共に、包丁が振り下ろされた。
ドスっという恐ろしい音を立て、トマトが半分に割れる。
ヴィヴィは庖丁をまな板にそっと置くと、半分に割れたトマトを両手で拾い上げ、
「くし切り~♡」
とにっこり満面の笑みを浮かべて、隣で一部始終を見ていた匠海を見上げた。手にしたトマトからタラリと赤い雫が伝い落ちる。
「スプラッタ……じゃなくて――、ヴィヴィ! そんなんじゃ、お嫁に行けないぞ!」
「え~?」