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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第39章        

 匠海が血相を変えてヴィヴィに詰め寄ってくるが、ヴィヴィは微笑んだまま首を傾げるのみ。

「まず、これは肉切包丁! 野菜はこっち」

 匠海はナイフホルダーから細めのナイフを選んで、まな板の前に立つ。

「左手はトマトに添えて、包丁は右手で持って」

 匠海が無駄のない動きでトマトをカットしていく。

「わ~。綺麗」

「やってみて」

「うん」

 ヴィヴィは今度は見たとおり、左手をトマトに添えた。そして包丁を握りしめた右手を、頭の上に大きく振り上げる。

「だ、だからっ! そんなに振り上げなくても、切れるから」

 ヴィヴィの後ろに回り込んだ匠海が、ヴィヴィの手に自分の手を重ね合わせる。

「左手も指先を中に丸めて……そう。包丁もトマトに当てて手前に引くだけ……そう」

 匠海の手に包まれたヴィヴィの手が、目の前で美しいトマトのくし切りを完成させた。

「すご~い!」

「別に、凄くない……」

「レタスは? どうするの?」

 ヴィヴィは洗い終えていたロメインレタスをまな板に載せると、可愛い声で匠海に切り方を教えろとせがむ。

「レタスは、適当でいいよ。そうだな、食べやすい大きさに切って」

「やってやって!」

「はいはい、ほら、左手添えて」

「添えたよ?」

 レタスに乗せたヴィヴィの細い手に、匠海の大きな手が被せられる。包丁を持たされた手でレタスをカットすると、またヴィヴィは「すごい~!」と感嘆の声を上げた。

「これでサラダと、パスタの下ごしらえはほぼ完成……っと」

 ヴィヴィの手から包丁を取り上げた匠海は、そう言ってヴィヴィの後ろから離れようとした。だが、

「えへへ」

 ヴィヴィがふざけた声を上げて背中に当たっていた匠海の胸に、ポスっと自分の体重を預ける。

「こら、凭れないの」

「え~。だってこれ、デートでしょ?」

「そうだけど……?」

「デートは『いちゃいちゃ』するものなんだって、カレンとジェシカが言ってた」

「はあ?」

 いきなり甘えだしたヴィヴィに、匠海が気の抜けた返事を返す。

「後ね~、アレックスが言うには『手を繋ぐ』とか……あ、ケイトは『チューする』って言ってた!」

「お、お前のクラスメイト達って……」

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