この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第39章
「普段付けるの勿体ないから、大事な商談の時につけさせて貰うよ。本当にありがとう」
破顔してヴィヴィの金髪の頭を撫でてくれる匠海に、ヴィヴィも幸せそうに笑う。
「大学卒業したから、これからはお仕事だけに専念できるね。ヴィヴィ、ずっとお兄ちゃんが体壊さないか、心配だったんだ」
「そう、だな……」
ヴィヴィはちらりと腕時計を見ると、おもむろに立ち上がった。
ソファーに座った匠海の前に立つと、ぺこりと深くお辞儀をする。
「今日は、ありがとう」
「ヴィヴィ……? なんだよ、あらたまって」
上半身を起こすと、匠海が心底驚いた表情でヴィヴィを見上げていた。
ヴィヴィはしっかりと匠海と視線を合わせると、ふわりと微笑む。
「ヴィヴィ、今日とっても楽しかった。お兄ちゃんとの『デート』、きっとヴィヴィの一生の宝物になる。絶対、忘れない――」
「はは、大げさだな~。でもそう言って貰えて、俺も嬉しいよ」
本当に幸せそうに微笑むヴィヴィに、匠海も相好を崩してヴィヴィに笑いかけた。
長く逞しい匠海の腕が、ヴィヴィへと伸ばされる。しかしその手がヴィヴィに触れる寸前、ヴィヴィは告白した。
「だから、ヴィヴィも、卒業するね」
「え?」
匠海の指先がヴィヴィの腕の前で止まる。
「本当に、お兄ちゃん子、卒業する……」
「ヴィヴィ……?」
匠海が怪訝な表情でヴィヴィを見返してくる。そんな兄に、ヴィヴィは困ったように笑う。
「もう『いちゃいちゃ』して、困らせたりしないよ」
「………………」
心底驚いた様子の匠海は、そんなヴィヴィに戸惑った様子で何も返してこなかった。
ヴィヴィはもう一度、深くお辞儀をする。
「今までいっぱい可愛がってくれて、本当に、ありがとう」
「………………」
匠海は何故か何も言ってくれなかった。
だから少し物足りなかったヴィヴィは、小さく唇を尖らせる。
「最後に、我が儘、言っていい?」
「……な、に……?」
やっと口をきいてくれた匠海に、ヴィヴィは恥ずかしそうに視線を彷徨わせる。しかしやがて恐々と口を開いた。
「最後に……ぎゅって、して……いい?」
そう我が儘を言ったヴィヴィの表情が可笑しかったのか、匠海は苦笑してゆっくりと立ち上がった。