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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第39章        

「普段付けるの勿体ないから、大事な商談の時につけさせて貰うよ。本当にありがとう」

 破顔してヴィヴィの金髪の頭を撫でてくれる匠海に、ヴィヴィも幸せそうに笑う。

「大学卒業したから、これからはお仕事だけに専念できるね。ヴィヴィ、ずっとお兄ちゃんが体壊さないか、心配だったんだ」

「そう、だな……」

 ヴィヴィはちらりと腕時計を見ると、おもむろに立ち上がった。

 ソファーに座った匠海の前に立つと、ぺこりと深くお辞儀をする。

「今日は、ありがとう」

「ヴィヴィ……? なんだよ、あらたまって」

 上半身を起こすと、匠海が心底驚いた表情でヴィヴィを見上げていた。

 ヴィヴィはしっかりと匠海と視線を合わせると、ふわりと微笑む。

「ヴィヴィ、今日とっても楽しかった。お兄ちゃんとの『デート』、きっとヴィヴィの一生の宝物になる。絶対、忘れない――」

「はは、大げさだな~。でもそう言って貰えて、俺も嬉しいよ」

 本当に幸せそうに微笑むヴィヴィに、匠海も相好を崩してヴィヴィに笑いかけた。

 長く逞しい匠海の腕が、ヴィヴィへと伸ばされる。しかしその手がヴィヴィに触れる寸前、ヴィヴィは告白した。

「だから、ヴィヴィも、卒業するね」

「え?」

 匠海の指先がヴィヴィの腕の前で止まる。

「本当に、お兄ちゃん子、卒業する……」

「ヴィヴィ……?」

 匠海が怪訝な表情でヴィヴィを見返してくる。そんな兄に、ヴィヴィは困ったように笑う。

「もう『いちゃいちゃ』して、困らせたりしないよ」

「………………」

 心底驚いた様子の匠海は、そんなヴィヴィに戸惑った様子で何も返してこなかった。

 ヴィヴィはもう一度、深くお辞儀をする。

「今までいっぱい可愛がってくれて、本当に、ありがとう」

「………………」

 匠海は何故か何も言ってくれなかった。

 だから少し物足りなかったヴィヴィは、小さく唇を尖らせる。

「最後に、我が儘、言っていい?」

「……な、に……?」

 やっと口をきいてくれた匠海に、ヴィヴィは恥ずかしそうに視線を彷徨わせる。しかしやがて恐々と口を開いた。

「最後に……ぎゅって、して……いい?」

 そう我が儘を言ったヴィヴィの表情が可笑しかったのか、匠海は苦笑してゆっくりと立ち上がった。

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