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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第39章        

 何故か匠海のその声が思いつめた様な声音に聞こえ、ヴィヴィは不思議そうに隣の匠海を振り返った。

「俺、9月からイギリスに留学する」

「…………」

 ヴィヴィは匠海の言葉を真正面から受け止めることができなかった。

 けれど匠海は、真っ直ぐにヴィヴィの瞳を射抜いてくる。

(……イギ、リス……?)

「大学に進学した時には、既に決めていた。4年東大で学びながら東京本社の現状を見せてもらったら、英国にMBAを取りに行くって」

「…………M……BA」

 すらすらと告白する匠海に対し、ヴィヴィは掠れた声でやっとのことで返す。

「ああ。向こうではずっと勉強することになるし忙しくなるけれど、英国支社も同時に見てくる予定だ」

「…………」

「だから、多分……行ったらずっと日本には帰って来れないと思う」

(ずっと……?)

「…………何、年?」

「1年間……」

 突然の告白に動揺したているのに、一方で心ここにあらずで放心状態のヴィヴィが、匠海を見つめる。

(1年間……。

 1年間……ずっと会わなかったら……、

 私……その間に、冷静になれるかな……)

 匠海への恋心はきっとどうやったってヴィヴィの心から消すことはできないだろう。

 けれど、もしかしたら、今までそんなに長く離れたことのない自分達が離れたら、少しは心を整理することが出来るのではないだろうか。

 そう。匠海と自分の関係を『普通の兄妹』として維持できる位には――。

「そ、う……」

 ヴィヴィの細い喉から、掠れた声が漏れる。

「分かった……」

 余りにも簡素な返事を返したヴィヴィに、匠海が意外そうに聞いてくる。

「大人になったな……。俺、ヴィヴィは絶対『行っちゃやだ!』ってごねると思ってた」

「ごねたりなんて……しない、よ……」

 ヴィヴィはそう言って小さくかぶりを振る。 暗めの金髪がさらさら音を立てて揺れる。

(私には、そんな資格さえない……ただの『妹』でしかないのに……

 そう……。ただの妹である自分に出来る事は、ただ一つ――)

「頑張って。ヴィヴィ、応援してる……寂しいけれど。とっても、寂しいけれど……」

 ヴィヴィはそう言って何とか笑みを浮かべた。最後に恨みがましく言ってしまったけれど、ご愛嬌の一つとして許される範囲だろう。

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