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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第39章
「………………」
何故だろう。
指の第二関節と指の付け根の間が、じんと痺れ始める。
それは徐々に強く掌全体まで震わせ、ヴィヴィは両手をギュッと自分で握りしめた。
しかしその痺れは一向に収まる気配を見せなかった。
体を蝕んでいた痺れは心にまで伝染したのか、まるで心臓を四方から目に見えぬ無数の細い棘で痛めつけられているかのように苦しくなる。
(…………っ)
目の前の大きな夕日は完全に水平線の彼方へと消え去り、辺りには完全な暗闇が広がった。
ヴィヴィは微動だにせず夕日の沈んだ方向を見つめ続けていた。
「……そろそろ、中に入ろうか」
小さな吐息と共に、匠海の静かな言葉が聞こえてくる。
「………………」
「ヴィヴィ……? 寝ちゃったのか?」
匠海の場所からはヴィヴィの纏ったブランケットとその長い髪が邪魔になり、その表情は見えなかった。
問いかけに反応しないヴィヴィに、匠海は背凭れから体を起こし、ヴィヴィのほうへ向きなおる。
その様子を感じ取り、ヴィヴィの華奢な肩がびくりと震えた。
「ヴィヴィ……?」
再度の声掛けにも応じないヴィヴィに、匠海がソファーから立つ気配がした。ヴィヴィは顔を背けると、やっとか細い声を発した。
「……見、ないで……」
「ヴィヴィ……? 一体どうし――」
ヴィヴィの傍に寄った匠海が、剥き出しになっていた左腕を掴んでこちらを向かせようとする。自分の手首を掴む匠海の体温が異常に熱く感じられ、ヴィヴィはびくりと体を震わせた。
「見ない、で……」
しかし力でヴィヴィが匠海に敵う筈がなかった。さらに左腕を引っ張られて強引に匠海のほうへ向かされたヴィヴィから、纏っていたブランケットが音を立ててソファーに落ちる。
驚いて顔を上げてしまったヴィヴィと匠海の視線が一瞬だけかち合った。しかしそれも数秒で、ヴィヴィは顔を背けて匠海の視線から逃れようとする。
「ヴィ、ヴィ……?」
「………………」
「なんで、泣いてるんだ……?」
「――っ な、泣いてないっ!」
ヴィヴィは咄嗟にそう否定したが、発した声は鼻声だった。
ヴィヴィの前に両膝を付いた匠海は、小さな頭を両手で拘束して自分のほうへと向けさせた。
白い頬に残る無数の涙の跡が、月の光を受けて微かに光っていた。