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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第39章
「ヴィヴィ……?」
大きな灰色の瞳から更に新しい涙が零れ落ちる。その頬を濡らす冷たい涙を、匠海は指の腹で拭い、灰色の瞳を覗き込んでくる。
あまりに真っ直ぐな瞳――紛れもなく『妹』であるヴィヴィを心配した眼差しだった。
ヴィヴィは咄嗟に視線を逸らすと、締め付けられるように苦しい喉から必死に声を振り絞った。
「あ、あは……ごめんね」
泣き笑いの表情から発されたのは、この場には場違いなほど明るい声だった。
「あ、あの……今日で『お兄ちゃん子』卒業して、明日からもうこんなに一緒にいること、できないんだって思うと、ちょっと寂しくなっちゃって……ただ、それだけなの!」
「ヴィヴィ……」
ヴィヴィは匠海の両手に自分の手を添えると、ギュッと握りしめた。
「ごめんね。顔、洗ってくる……」
そう言って腰を上げたヴィヴィを匠海が呼び止める。
「ヴィヴィ」
「……――っ」
気が付くと、ヴィヴィのむき出しの両膝はウッドデッキに着いていた。そして何故か、上半身は匠海の広い胸の中に抱きしめられている。
(お兄、ちゃん……?)
「卒業なんか、しなくていい……」
(え……?)
ヴィヴィは匠海の発言の意味が分からず、心の中で戸惑いの声を上げる。
「ヴィヴィはまだ、高校2年生だろ……。まだ、俺のことだけ見ていたらいい」
「お、兄ちゃん……?」
ヴィヴィは匠海の言葉にびくりと震え、咄嗟に目の前の匠海の胸を押し返した。けれど匠海はさらにヴィヴィを抱き込んでくる。
「一年なんて、あっという間だ。すぐに帰ってくる――」
「…………」
(やめて……やめて……)
胸の中でふるふると頭を振るヴィヴィ。
「俺は、嫌だ……」
「……――っ」
ぎくりとヴィヴィの肩が震える。
「俺はまだ……、ヴィヴィから卒業できそうも、ない……」
ヴィヴィの瞳から涙が溢れ出す。
(どうして……どうして、そんなことを言うの……?)
「駄目……だよ……」
(いっぱい考えたの。2年も掛けて必死に考えたの……なのに……っ)
ヴィヴィは嗚咽を殺しながら、頭と心の両方で匠海を拒絶しようとする。
「どうしてだ……?」
しかしヴィヴィの心など知りもしない匠海から、無慈悲な問いかけが降ってくる。