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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第39章        

(もう、やめて……! お願い……そうじゃないと、私……)

「我慢、できなくなる……」

「我慢……? そんなもの、する必要なんでないだろ」

「……――っ」

 ヴィヴィは息を飲んで体を強張らせた。

 我慢なんて、しなくていい?

 我慢なんて、する必要がない?

(―――っ!!)

 声に形にならないどす黒い想いの塊が咽喉から零れ落ちそうになるのを、ヴィヴィは歯を喰いしばって必死で堪える。

 数秒そうして耐えていたヴィヴィはぎゅうと瞼を閉じると、渾身の力で匠海の胸を押し返した。

「ヴィヴィ?」

 少しだけ緩んだ匠海の抱擁に、ヴィヴィは固い声できっぱりと言った。

「顔、洗ってくるから、離して」

「…………」

「お兄ちゃん、お願い」

 ようやく腕を緩めてくれた匠海に顔を見られないように、ヴィヴィは俯いたまま立ち上がろうとした。

 しかしまた匠海の両手で顔を包まれ、上を向かされてしまった。

(どうして……っ!?)

「お願い……もう、こんな顔、見ないで……」

 もう何が何だか分からなくなる。

 なんで自分はこんなところで匠海と押し問答しているのか。

 こんなに醜い泣き顔を見られなければならないのか。

「可愛い妹が泣いてるのに、離してやることなんて、出来ない……」

「見ないで……お願い……」

 もう精も根も尽き果てたヴィヴィが、ぐったりと脱力し膝立ちの状態からぺたんとウッドデッキにへたり込んでしまった。

「ヴィヴィ……」

 匠海は自分に心底優しくて甘いことは、自分だって嫌というほど分かっていた。

 そんな匠海にとって、妹の自分が苦しそうに泣いて理由を言わなければ、問い詰めて離してくれなくなることくらい、簡単に想像ついたのに。

(どうして、私ってこうなんだろう……

 笑って、卒業する筈だったのに……

 他の兄妹のように、お兄ちゃんにとって空気のような存在になる筈だったのに……)

「……私は、お兄ちゃんの妹として、相応しくない……」

「馬鹿言うな……」

「兄である俺が、お前以上の妹はいないと思ってるんだぞ? 相応しいとか相応しくないとか、関係ないじゃないか?」

「―――っ!」

 ヴィヴィはとうとう嗚咽を漏らして、しゃくりあげる。

「わ、私はそうじゃないって、言ったら……?」

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