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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第40章
「そう言えば、兄さんは……?」
スープを飲んでいたクリスが、スプーンを置いて傍にいた執事に尋ねる。母ジュリアンは双子以外の生徒もみているので、大体日曜の朝はいないことが多いのだが、匠海がいないことは珍しかった。
「匠海様は早朝からお出掛けのようです」
と執事から返事が返ってくるとクリスは「そう……」と頷いた。
ヴィヴィはというと大して食欲もなかった。小さなクロワッサン一つをコーヒーで無理やり流し込むと、父とクリスの会話に聞くともなしに耳を傾けて朝食を終えた。
午前中から勉強と習い事を終わらせると、夕方からクリスとバレエのレッスンを受けに行き、その足でリンクへと戻って再度夜のレッスンを受けた。
多忙なスケジュールを熟して夜10時頃に帰宅したヴィヴィは、クリスに就寝の挨拶をするとバスルームで一日の汗を流した。就寝準備をしてリビングへと移動したヴィヴィの耳に、パタンと静かな音が届く。
それは、匠海の部屋のほうからだった。
ヴィヴィは冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取出し、氷を入れたグラスに注ぐ。一口口にしたヴィヴィは、ソファーテーブルにコトリと音を立ててグラスを置いた。
ソファーに腰を下ろし、脱力して背凭れに身を預ける。
マントルピースの上に鎮座した時計から、ちっちっちっと静かな秒針の音が聞こえる程、ヴィヴィの部屋は静寂に包まれていた。
考えなればならないことは山ほどあるのに、あの告白以降、自分の脳は思考という機能を停止してしまったようだ。
(………………)
ヴィヴィはぼうと、自分の白いバスローブから覗く膝小僧を見つめていた。
何分ほどそうしていたのだろう。
その場に降りていた静寂は、カランという涼しげな音により遮られた。
すっと膝からテーブルへと視線を移す。
放置され汗をかいたグラスの中、溶け始めた氷が、水面を微かに揺らいで浮いていた。
ヴィヴィは長い睫毛に縁どられた瞼を一つ大きく瞬くと、ぎしりと音を立ててソファーから立ち上がった。
白いスリッパに包まれた足は、迷いなく匠海との部屋の境界線へと向かう。
しかし、真鍮のドアノブを握ったヴィヴィの手は、ふいに止まった。