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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第40章
小さな頭の中に、ふと疑問がよぎる。
(私……これから、どうしたいんだろう……)
ヴィヴィは働きたくないと訴えてくる脳を誤魔化しながら、無理やり思考する。
匠海に『昨日の告白は冗談』と強引な嘘を吐いてでも、元の関係に戻りたいのか。
それとも、自分の気持ちを伝えてしまった今、匠海に少しでも女として自分を見てもらいたいのか。
「………………」
ヴィヴィの思考は即座に前者を打ち消す。
今更、何もなかった頃には戻れない。
だってそうだろう。
もう、自分も、きっと匠海も――無かったことになんて出来ない。
そしてヴィヴィの中は、自分の気持ちを知ってしまっている匠海に、もっと自分を見てほしいという欲求しか、もう、心の奥底から湧いてこない。
ヴィヴィの薄い唇がギュッと引き結ばれる。
(認める。認めるよ……。
どんなに言い訳しようが、迷おうが、
結局、私は自己中心的な人間だって。
自分が一番、可愛いんだって――)
いつの間にか握りしめていたバスローブの裾から手を放すと、ヴィヴィは匠海への扉をゆっくりとノックした。
10秒ほどの静寂の後、その扉は匠海の手によって開かれた。
「お兄ちゃん……」
ヴィヴィの目の前に立っていた匠海は、日曜にも関わらずスーツ姿だった。
「ヴィヴィ……」
妹を見下ろしたまま何とも言えない表情で立ち竦む匠海に、ヴィヴィは小さな声で口を開く。
「入っても、いい……?」
「……ああ」
一瞬の躊躇の後ヴィヴィを部屋に招き入れた匠海は、ヴィヴィにソファーを勧めた。「何か飲むか?」と聞かれたが、ヴィヴィは小さく頭を振る。
匠海はL字型のソファーでヴィヴィの斜め向かいに座った。長い両足の上に腕を乗せて指を組んだ匠海が、静かに口を開く。
「昨日の事、だけれど……」
言いにくそうに口を開いた匠海を、ヴィヴィは真っ直ぐ見つめる。
「あれが、ヴィヴィの本心、なの……」
「………………」
昨日どれだけ匠海が宥めすかしても泣き止まなかったヴィヴィとは同一人物とは思えないほど、今日のヴィヴィは真正面から匠海に向き合っていた。
そしてそれとは対照的に、匠海は昨日のことには触れたくないようにヴィヴィには映った。
そりゃあそうだろう――。
「やっぱり……気持ち、悪いよね……」