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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第40章       

 しかし指先が匠海の首に届く瞬間、兄の口からは紛れもない拒絶の言葉が発せられた。

「本当に、どうかしていた……もう、俺に構うな……」

 その匠海の言葉に、徐々にヴィヴィの瞳が大きく見開かれる。

(どう……して……)

「………………っ」

(どうして――っ!?

 さっきまでヴィヴィのこと、触っていたじゃない?

 ヴィヴィの大事なところを、その指が出入りしていたじゃないっ!

 なのに――っ)

「どうして――っ!?」

 気が付くとヴィヴィは絶叫していた。

 説明の出来ない怒りが爆発し、白いバスローブを羽織っただけの華奢な身体がぶるぶると痙攣する。

 自分には怒る権利さえないと分かっているのに、気持ちが乱れてコントロール出来ず、想いが全て口から漏れ出てしまう。

 ヴィヴィのあまりの取り乱しように、今度は匠海が目を見開いた。

「嫌っ! 好きなの! ずっとずっと、好きだったのっ!!」

「……頼む……やめてくれ……」

 匠海が縋り付いてくるヴィヴィから視線を逸らす。

 けれどもうヴィヴィは我慢できなかった。

「好き……好き……こんなにも、好きなのに!

 愛しているのにっ!!

 どうして分かってくれないの――っ!!!」

「………………っ」

 匠海が絶句してヴィヴィの剣幕を見返す。

「お兄ちゃんじゃないと駄目なのっ!

 好きっ! 好き、大好き……っ! 好き……す――」

「ヴィヴィ……っ!」

 好きだと連呼し続けるヴィヴィの口を、もう我慢できない匠海が大きな掌で覆う。

 ヴィヴィは首を振って懸命にそれを振りほどこうとしたが、匠海の力に叶うわけがなかった。

 脱力したヴィヴィは、ぺたりとソファーに尻をつく。

(好き……なのに――)

 ヴィヴィの大きな瞳から涙が盛り上がり、とうとう溢れ出す。

 それは頬を伝うと、ヴィヴィの口を覆った匠海の掌を濡らし、滴り落ちていく。

 ぱたぱたと冷たい涙が音を立て、ヴィヴィの細い太ももへと降り注ぐ。

「ヴィヴィ……頼む……許してくれ……」

 そう苦しそうに贖罪の言葉を口にした匠海の表情は、涙で霞んだヴィヴィの瞳では捉えることができなかった。

(お兄ちゃん……どうして――)







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