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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第41章      

 翌朝。4月20日(月)。

 ヴィヴィは匠海のリビングで目を覚ました。

 黒革のソファーに倒れこむように横たわっていたヴィヴィは、だるそうに体を起こす。

 よろよろとした足取りで裸足のまま匠海の寝室へと向かうが、そこは使われた形跡もない。

 昨夜、叫ぶのを止めて泣き続けるヴィヴィを置き、匠海は何処かへ出て行ってしまった。

 自分の私室のバスルームへと戻り、うまく思考できない頭でリンクへと行く準備を始める。

 パシャパシャと水音を立てて顔を洗い視線を上げると、大きな鏡に水滴を纏った白い自分の顔が映った。

「ひどい顔……」

 ヴィヴィは苦々しげにそう呟くと、タオルに顔を埋めた。

 準備を終えて階下へと降りると、案の定クリスに「どうしたの、その顔!?」と驚かれた。

 泣きすぎて瞼が腫れ、目も赤いヴィヴィは、

「悲しい夢を見ちゃって……」

と嘘を付いて誤魔化す。けれどクリスには通用したようで、

「だから、泣いちゃったの……? どんな夢……?」

と心配してくれる。流石に嘘をついて申し訳なくなったヴィヴィが、

「クリスがヴィヴィの前から、いなくなっちゃう夢」

と可愛く言ってクリスの胸に飛び込んだ。

 そんな狡いヴィヴィを、クリスは愛おしそうに抱きしめ返してくれる。

「馬鹿だな……天地が引っ繰り返っても、そんなことはないよ……」

 ヴィヴィの長い髪に顔を埋め、クリスは暖かい声でそう慰めてくれた。

 早朝のレッスンを終えると、体を動かしたおかげか瞼の腫れは引いていた。

 リンクのカフェで朝食を取り、学校へと向かう。

 その日のヴィヴィは、教師やクラスメイトが驚くほどいつも以上に集中して勉強し、手を挙げて沢山発言もした。

 勉強でもスケートでも遊びでも何でもいい。何かで頭の中を常に飽和状態にしておかないと、匠海との事が頭をよぎり泣き出してしまいそうだった。

 結局その日一日、匠海が屋敷に戻ることはなかった。





 4月21日(火)。

 学校から戻り薄い空色のワンピースに着替えたヴィヴィは、今日も現実逃避するように課題に取り掛かった。
 
 もう双子も高等部2年生。来年には3年になり大学受験が控えている。

 速読で参考書を読み進めるヴィヴィのこめかみに、ペンを握った拳が添えられる。

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