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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第41章
しかし集中していたヴィヴィの思考を、書斎の扉が開けられた音が遮った。ちらりと振り返ると、そこに朝比奈が立っている。
「お嬢様。匠海様がお呼びですが、今、よろしいですか?」
「え……?」
(お兄ちゃんが、私を……?)
昨日今日と、ヴィヴィを避けている様子の匠海が自分に会いたいと言っているとは、何かの間違いではと思ったが、朝比奈が言い直す様子もなかった。
「どうなさいましたか、お嬢様?」
「あ……分かった。行くね」
ヴィヴィは引かれた椅子から立ち上がると、朝比奈に案内されて1階の応接室へと向かった。
朝比奈がノックし、重厚な扉が開かれる。
広い応接室には、匠海ともう一人が座っていた。
朝比奈に促されて中に入り二人に近づいたヴィヴィに、一人掛けソファーに腰かけていた匠海が微笑んで立ち上がる。
「ヴィヴィ。待っていたよ。ヴィヴィに紹介したい奴がいるんだ」
ヴィヴィはデート以降、数日ぶりに見た匠海の微笑みに、少なからず動揺した。
そのヴィヴィの前で、ソファーから腰を上げた男子が立ち上がる。
背は匠海より少し低いくらいだろうか。日本人特有の涼しげな顔立ちの男子は、ヴィヴィを見つめて爽やかに微笑んだ。
「初めまして。お兄さんのゼミの後輩の、真行寺 太一です」
はきはきとしているのに柔らかさも感じさせるよく通る声。服装も清潔感があり、育ちの良さを伺わせる。
実は隠れ人見知りのヴィヴィだが、自分の友人を紹介してくれた匠海の面目を潰さぬ様、なるべく愛想よく振る舞う。
「初めまして。妹のヴィクトリアです」
(珍しいな。お兄ちゃんが、私に友人を紹介するなんて……)
ヴィヴィはそう心の中で思いながらも、ワンピースの前で両手を合わせ、ぺこりとお辞儀をする。
勧められてソファーに座ったヴィヴィの前に、朝比奈により紅茶が饗される。
「光栄だな。あのヴィクトリアちゃん本人に、会えるだなんて」
真行寺が隣のヴィヴィにそう言って、とても嬉しそうに笑いかける。
(あの――?)
ヴィヴィは紅茶に口を付けながら『どの』自分のことだと内心首を傾げていると、匠海が補足してくれる。
「真行寺は、フィギュアスケート好きなんだ。で、ヴィヴィのファンってわけ」