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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第41章
「ええと……」
ヴィヴィは自分のスケジュールが直ぐには分からず、傍に控えていた朝比奈に視線をやる。
心得た朝比奈が、
「土日でしたら、GW開けが。平日でしたら、直近ですと実は明日がBSTの創立記念日で休校なので、午後の予定を開けることは出来ます」
と胸から手帳を取り出して主人のスケジュールをそらんじてみせた。
「へえ……。じゃあ、明日行って来れば?」
まるで急かす様にそう提案する匠海に、
「え? 明日は演奏会ありませんよ?」
と真行寺は目を丸くする。
「別に演奏会じゃなくても、デートなら他に行くところあるだろう?」
「まあ、そりゃあそうですが……。どうする?」
先輩である匠海の助言に、真行寺は隣のヴィヴィにお伺いを立ててくる。
「明日の午後、真行寺さんは予定、大丈夫なんですか?」
ヴィヴィは心配になって、自分を押し付けられた形の真行寺に確認する。
「うん。15時までは講義があるけれど、その後なら大丈夫だよ」
「では、明日、行きましょうか」
「分かった。じゃあ明日16時に車でここに迎えに来るよ」
「はい、お待ちしています」
ヴィヴィはそう言って真行寺に向かって清楚な微笑みを浮かべた。真行寺が嬉しそうに「楽しみにしてる」と言って寄越したので、ヴィヴィは頷いて見せた。
(もう……良い『妹』としての役目は、果たしたよね……)
ヴィヴィは心の中でそう確認すると、さり気なく自分の腕時計を見て口を開く。
「お兄ちゃん……ヴィヴィ、勉強の途中だったの」
「ああ、ごめん。戻っていいよ」
申し訳なさそうにそう言うヴィヴィに、匠海が退席の許可をくれた。
「失礼します」
ヴィヴィは立ち上がると真行寺にお辞儀をし、朝比奈を伴って応接室を後にした。
私室の書斎に戻り、開いたままの参考書に引き続き視線を落とす。
速読のため、ぱらり、ぱらり、と早い間隔でページがめくられていく音だけが室内にしていた。
3分程して全て読み終えたヴィヴィは、パタンと静かな音を立てて参考書を閉じる。
そしてそれに付随する問題集を開くと、所定のものから解き始めた。
こぎみよくさらさらとノートの上を滑っていたペンが、ふと止まる。そのペンの先が、水分を含んでじんわりと黒く滲んでいた。