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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第41章      

「そうなんだ。僕は好きでよく来るよ」

「お魚も好きなんですか?」

「うん。スクーバーダイビングやってるから」

「え~! 羨ましい。すごく多趣味なんですね」

 ヴィヴィはそう感嘆の声を上げる。やはり綺麗なもの繋がりでダイビングが好きなのだろうか。

「そう。だから時間がいくらあっても足りない」

 真行寺はそう言って首を竦める。匠海と同じ東京大学の4年生である彼には、勉強や研究と趣味の両立は確かに大変だろう。

「あ! マンボウ!」

 ヴィヴィはそう声を上げると、目についた水槽に飛びつく。

「大きいね」

「はい。あれ、なんか水槽の内側にフィルムみたいなのがありません?」

 ヴィヴィが真行寺を見上げて指をさして見せる。

「ああ、マンボウって魚のくせに泳ぎが下手でね。自分で水槽にぶつかって弱り死んでしまうから、こうやって保護してるんだ」

「へ~。確かに泳ぐのゆっくりだし、体が大きいからすぐに方向転換出来なさそうですね」

 納得したヴィヴィがうんうん頷く。

「そうでしょう。そのくせ野生のマンボウは寄生虫を振り落すためか、勢いをつけて海面からジャンプすることがあるらしくてね、それで海面に体を打ち付けて死んでしまったりするらしい」

「えぇっ! 結構おバカさん?」

 真行寺の説明にヴィヴィは破顔する。

「かもね。それにこの唇見てみて。何か気づかない?」 

「ん~?」

「フグに似てるでしょう? 実はマンボウはフグ科なんだ」

「え~! あのフグですか?」

 ヴィヴィはマンボウの小さなO形の唇をまじまじと見つめる。

「そう。だから怒ると膨らむらしい」

「見てみたい!」

 ヴィヴィがそう言って笑うと、真行寺も「僕も」と微笑んだ。

 その後も全ての水槽でヴィヴィがへばり付きじっと眺めているので、隣で真行寺が魚や甲殻類の説明をしてくれた。

「本当に博学ですね、真行寺さん」

 ヴィヴィが尊敬の眼差しで見上げると、真行寺は「それを世にいう『おたく』という」と肩を落として見せた。

 一際目を引く大きな水槽の前で立ち止まったヴィヴィは、何故かその隅にいるあるものをずっと見つめていた。

 その視線の先を認めた真行寺が、

「あれは、モンガラカワハギだね」

と教えてくれる。

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