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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第41章
「モンガラカワハギ……」
その名にピッタリな外観は、オレンジ色でO型の唇はフグに似ているのに体は扁平で、上半身は黒く下半身は黒地に白く大きな円形の斑紋がある。
「なんでずっと同じところで、ぐるぐる回ってるんだろう?」
「う~ん。別に産卵直後の警戒行動という訳でもなさそうだしね」
真行寺はその周辺を注意深く見つめる。
「?」
「ああ、モンガラカワハギ科って海底に巣を作って産卵するんだ。卵は一日で孵化するんだけどその間、親魚が外敵から守るためにとても攻撃的なんだ。実は僕もダイビングで、これの仲間のゴマモンガラに噛まれたことがあるよ」
その時のことを思い出してか、真行寺は左の二の腕を右手で触れた。
「えっ? 大丈夫だったんですか?」
「歯が強くてね。着ていたウェットスーツも破れちゃって、腕にも歯形が付いてた。軽症だけどね」
苦笑した真行寺を、ヴィヴィが見上げる。
「あんなに愛嬌のある外見なのに、怖いんですね」
「卵を守るために身をていして守ったり、ヒレで新鮮な海水を送り込んだり……人間でいうところ、情が深いのかもね?」
そう言ってぽんとヴィヴィの頭に掌を置いた真行寺を見上げ、ヴィヴィは小さく笑った。
(真行寺さんって……どことなくお兄ちゃんと似てる……二人とも同じくらいの妹がいるからかな……?)
ヴィヴィは視線をモンガラカワハギに戻す。それは飽くことなく、その場に円を描き続けていた。
「ブサカワ……ですね」
ぼそりと零したヴィヴィの感想に、隣の真行寺がぷっと吹き出した。
「お腹空いたね。夕食、何が食べたいかな?」
水族館を後にし、二人の乗った車は駐車場から街へと滑り出していく。
「お魚!」
助手席のヴィヴィが迷いなくそう口にする。
「ん?」
「サバの群れを見ていたら、とても美味しそうだったので……」
「あはは。本能に正直なのは良い事だね」
ヴィヴィのバカ正直な感想に、真行寺が破顔する。
「じゃあ、イタリアンにする? 魚介多いし」
「できれば、和食がいいです。煮魚食べたい……」
ヴィヴィは自分でも不思議なくらい、たった数時間で真行寺に心を開いてしまったらしく、本音をぼそりと零す。