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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第42章
「私が、真行寺さんに『セックスしてみたいから、抱いてください』って、頼んだの」
「…………ヴィヴィ……」
匠海の表情が瞬時に引き攣った。
ヴィヴィは荷物を手にしていないほうの手を、匠海の握りしめられた拳に這わせる。
つつと指の腹で匠海の掌の皮膚越しに骨の上を辿ると、びくりと体を震わせた匠海がぱっと手を引いた。
その様子をじっと下から見つめていたヴィヴィは、口角だけくいと上げて嗤う。
周りに『お子ちゃま』と冷やかされる幼稚さを一切削ぎ落とした女の貌が、まだ幼さの残る顔に宿る。
「お兄ちゃんも、試してみる――?」
「…………っ ヴィヴィっ!」
かっとした匠海がそうヴィヴィを一喝したが、ヴィヴィはさっとその脇を抜けてクローゼットを出た。
私室のリビングを抜けて長い廊下へと出る。すると後ろから匠海が追いかけてくる音が聞こえた。
ヴィヴィはそのまま三階の長い廊下を突っ切り、二階へと続く広い階段を下りる。
「待ちなさい」
「………………」
「待ちなさい、ヴィヴィ。まだ話は終わっていない!」
匠海の怒りを含んだ声に、ヴィヴィの足が階段の途中で止まる。
「話って……?」
背を向けたまま溜息交じりにそう発したヴィヴィに、匠海は一歩ずつ階段を下りながら近づいてくる。
「お前は、ただムキになっているだけだ」
こつこつと革靴が大理石を踏みしめる音と共に降ってくる、匠海の冷静な声。
「………………」
「自分の思い通りに事が進まなくて、腹の虫が収まらない――そうだろう?」
背を向けたままのヴィヴィの眉がぐっと強張る。
(そんな下らない考えで私がこんなことをしていると、本当にそう、思っているの――?)
「…………もし、そうだとしても」
ヴィヴィは自分の隣に立った匠海に視線を合わさず、静かに言い放った。
「そうだとしても、お兄ちゃんにはもう、関係ない――」
ヴィヴィのその言葉は、匠海には意外だったようだ。きっと自分の気を引きたくてこんなことをしているであろうヴィヴィが「自分には関係ない」言ったのだから。
「………………」
ヴィヴィは匠海を振り切ると、中二階の踊り場を抜け、二階の踊り場への階段を下りていく。
「ヴィヴィ!」