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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第42章
「私を見てくれないなら、もう、放っておいて……」
ヴィヴィはそう言って唇を噛むと、スタスタと足早に階段を下っていく。
「放っておけるわけないだろう!」
一段飛ばしで階段を下りてきた匠海に、ヴィヴィは手首を掴まれる。
「自分の躰をそんなふうに粗末に扱うな! そんなことをしてもヴィヴィ自身が傷つくだけで、何の解決にもならないだろう!?」
「………………」
(どうして、こうなってしまったのだろう……)
目の前の匠海は、今までに見せたこともない苦悩した表情を浮かべている。
愛しい兄を苦しませているのは紛れもなく、独り善がりで愚かな自分。
「こんな…………」
ヴィヴィの薄い唇が震える。
(こんな筈じゃ、なかったのに……。
お兄ちゃんにこんな顔をさせたかった訳じゃないのに……。
あの時……あの時私が、自分の気持ちを口にしたりさえしなければ――!)
ヴィヴィの目尻に涙が浮かぶ。
匠海の顔も見ていられなくなって、ヴィヴィは小さく叫ぶ。
「もう、放っておいて……っ もう、私を見ないで――!!」
ヴィヴィは掴まれた手を強引に振りほどこうとしたが反対の手首も掴まれ、匠海はより一層強く握りしめてきた。
骨が軋みそうなほどの強さに、ヴィヴィの顔が歪む。
「離さない……ヴィヴィがもうこんなことを辞めるって言うまでは――!」
匠海が強い意志を滲ませながら、怒気を噛みしめるようにそう口を開いた時、
「ヴィヴィ……? 兄さん……?」
一階でヴィヴィを待っていたらしいクリスの声が、下から響いてきた。
その瞬間、匠海の力が一瞬弱まった。
ヴィヴィは咄嗟に両腕を思いっ切り下へ振り下ろすと、匠海の拘束が解けた。
素早く踵を返して二階の踊り場へと降りると、階下を目指して駆け出した。
「ヴィヴィ――っ!!」
まるでがなり立てる様な割れた声がヴィヴィの鼓膜をつんざく。
今まで耳にしたことなどなかった匠海の怒号に、ヴィヴィの体が一瞬びくりと硬直し、咄嗟に後ろを振り返った。
しかしそれが悪かった。
その拍子にヴィヴィが下げていたスケート靴の袋が彼女の両膝の間に絡まり、体勢を崩す。
スニーカーに包まれたヴィヴィの踵が、大理石の階段からずるりと踏み外した。
「きゃっ……!?」