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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第42章
ヴィヴィの細長い腕が咄嗟に手すりへと延ばされたが、その先の指は空しく空を掴んだだけ。
上半身のほうから階下へ向けて重力に従って落ちていくのをヴィヴィは感じた。
視界だけはまるでコマ送りの写真のように、周りの状況を捉えている。
吹き抜けの階段に下げられている豪奢なシャンデリア。
階段の角度に勾配を付けた天井。
けれど目を開けていられたのはその時までだけだった。
次に襲い来るであろう石の階段に叩きつけられる衝撃に備え、ヴィヴィは瞼をギュッと瞑って耐える。
ダダダダダ。
「―――っ!!」
自分が階段を滑り落ちる音が遠くに聞こえる。
それと共に襲いくる、段差が左腕を抉る鈍い痛みに、ヴィヴィは声にならない悲鳴を上げる。
ようやく中一階で止まったヴィヴィは、運よく頭は打たなかったようだ。
頭の中は混乱しているが意識はしっかりしており、感じたのは左腕の痛みだけ。
「ヴィヴィっ! ……――っ!? 」
一階から駆け上がってきたらしいクリスの姿が、中一階の踊り場で倒れたままのヴィヴィの視界に入る。
その視線は真っ先にヴィヴィに注がれたが、瞬時にその後ろに移される。
(…………?)
ヴィヴィは床に手をついて体を起こそうとしたが、その腰の上に感じた何かの重みを捉え、視線をやる。
シャツから覗く逞しい二の腕には、血が滲んだ擦過傷。
その腕を視線で辿ると、その先にあるのは長い脚を階段に投げ出し、上半身を踊り場に横たえた体躯。
(……な、に……?)
ヴィヴィはぼうとする頭で自分の置かれた状況を把握しようとするが、上手くいかない。
騒ぎを聞きつけて駆け寄ってきた朝比奈達執事により、ヴィヴィの後ろの人物が仰向けにされる。
そこあったのは、こめかみから血を流した匠海の姿。
(な……ん、で……?)
「匠海様!? しっかりしてください、匠海様!」
「おい、救急車を呼べ! あと、主治医も――!」
「頭を打っておられる、絶対に動かすな!」
黒服に身を包んだ執事達が動き回るのを、ヴィヴィは踊り場に座り込んでぼうと見つめていた。
視界は広がっているのに、目の前の状況を把握できない。