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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第42章
そのヴィヴィの視界を遮ったのはクリスの顔だった。
自分そっくりのクリスの顔が、珍しくあけすけに焦りと不安の表情を浮かべ、自分を覗き込んでいる。
「ヴィヴィ? 大丈夫か、ヴィヴィ……?」
ヴィヴィの灰色の瞳は緩慢に開かれたままで、瞬き一つしない。
妹のそのおかしな様子に、クリスが焦ったように聞いてくる。
「大丈夫か? 頭打ってない?」
「お……兄、ちゃん……?」
壊れたゼンマイ人形のようにかくかくと顎を動かせてやっとそう発したヴィヴィに、クリスが苦しそうな表情を浮かべる。
「兄さんは、大丈夫だ――」
そう言ってヴィヴィの視界を自分の体で遮り、匠海の姿を隠す。
「お兄、ちゃん……?」
ヴィヴィの細い腕が、クリスの後ろにいる匠海の姿を確かめるように伸ばされる。
「ヴィヴィ、大丈夫だから……」
「いや……」
ヴィヴィは膝を付いて、匠海へと近づこうとする。
「クリス様、ヴィクトリア様をお部屋に連れて行ってくださいますか?」
朝比奈の切羽詰まった声に、クリスが「分かった」と返事を返し、ヴィヴィを抱き上げようと腕をその体に回す。
その途端、ヴィヴィは狂ったように暴れだした。
クリスを押しのけて少しでも匠海の傍へと寄ろうとする。
「いやっ……いや、いや……嫌――っ!!!」
半狂乱になったヴィヴィが、甲高い声を上げて泣き叫ぶ。
腕をがむしゃらに振り回すヴィヴィを、クリスが胸の中に抱きしめて必死に抑えつける。
けれどそんな混沌とした状況の中でも、匠海はその瞼を開けることはなかった。
やがて駆けつけた救急隊員に運び出された匠海が救急車に収められた途端、ヴィヴィは糸の切れた操り人形のようにぷつりとその意識を手放した。