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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第42章
『ヴィヴィ……』
どこからか聞こえる、自分を呼ぶ暖かい声。
ヴィヴィは首をきょろきょろと巡らし、声の主の姿を探す。
何故かいつもより大分低い視界に首を捻った時、ヴィヴィの両脇にひょいと手が入れられその体は宙に浮いた。
そして降ろされたのは誰かの腰の上――目の前に座っている人物とヴィヴィの視線の高さが近くなる。
そこにいたのは、どうやら初等部3年生位の幼い匠海だった。
『おにいちゃま!』
ヴィヴィの小さな唇から、舌っ足らずな甘えた声が漏れる。
(これは……夢? それとも、昔の記憶……?)
ふと自分の掌に視線を落とすと、紅葉の葉のように小さなそれ。
『ヴィヴィ、おいで……』
目の前のまだ幼い輪郭の匠海が、愛おしそうにヴィヴィに微笑む。
その表情にヴィヴィも嬉しくなり、満面の笑みを浮かべて匠海に短い腕を伸ばししがみ付く。
『ヴィヴィのお陰だよ……ヴィヴィのお陰で、僕は今、こうして幸せでいられる……』
そう言いながら、ヴィヴィの小さな体を優しく包み込んでくれる匠海。
『おかげ……?』
まだ二歳位のヴィヴィは、まだ貧弱なボキャブラリーの中からその言葉の意味を図ろうとするが、上手くいかないらしい。こてと金色の頭を傾けて匠海を見上げる。
『ふふ。まだ分からないか……これなら分かる?』
『なあに?』
匠海は人差し指をヴィヴィの小さな鼻の上に添える。
『ヴィヴィがいてくれるから、僕は幸せなんだ』
『ほんと?』
『うん。愛しているよ、ヴィヴィ……』
屈んだ匠海がちゅっと音を立ててヴィヴィのおでこにキスを落とす。
それがくすぐったくて、ヴィヴィは瞳を細めた。
『うん! おにいちゃま! ヴィヴィも。ヴィヴィも、あいしてる!』
そう舌っ足らずに言い募るヴィヴィに、匠海は破顔した。
(ああ、そうだ……私はこの笑顔を見たかっただけ。
この笑顔をただ、独り占めしたかっただけなのに――)