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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第42章          

 ヴィヴィは重い瞼を開く。

 起き抜けで霞がかった視界が徐々に焦点を結び、ヴィヴィは自分の寝室に寝ていることに気づいた。

(あれ……今、何時……?)

 遮光カーテンは既に開かれており、レースのカーテン越しに差し込む日光の角度から、かなり日が昇ってから時間がたっていることが窺い知れた。

「朝比、奈……?」

 視界の隅に黒いスーツを纏った人影が目に入り、ヴィヴィは声をかける。

「お嬢様! お気づきになられましたか?」

 さっと振り返った朝比奈がヴィヴィに近づき見下ろしてくる。

 眼鏡の奥の瞳には心配そうな色が浮かんでおり、ヴィヴィは「どうしたんだろう?」と違和感を感じる。

「どう、したの? そんな、顔して……?」

 ヴィヴィはゆっくりと右腕を上げると、指先を朝比奈の頬へと伸ばす。

 滑らかなその輪郭に触れたと思った途端、ヴィヴィの手は朝比奈によって握りしめられ、彼の頬に押し付けられた。

「良かった……本当に……かすり傷だけで済んで――!」

 朝比奈が感情を押し殺したような声で、そう苦しそうに呟く。

(かすり傷……?)

 ヴィヴィは朝比奈の言葉の意味が分からず、きょとんとする。

「頭が痛いとか、気持ち悪いという症状はありませんか?」

 そう朝比奈に聞かれ、ヴィヴィは戸惑ったように「う、うん……」と答える。

 その返事にほっとした様子の朝比奈が、ゆっくりと握っていたヴィヴィの手を放してベッドへと下した。

「すみません、取り乱してしまいまして……。今、クリス様を呼んでまいります」

 恭しく礼をして寝室を出ていく朝比奈を目で追いながら、ヴィヴィが呟く。

「クリス……?」

 枕の上で首を巡らしベッドサイドの置時計を見ると、7:20を指していた。

(あれ……私、なんで寝てるんだろう……? クリスも、まだ、リンクに行ってないの……?)

 寝起きで少しぼうとしてはいるが、体に不具合はないように思えた。ヴィヴィは両腕を付いて上半身を起こそうとすると、左腕に痛みが走った。

「―――っ!?」

 小さく息を呑みながらも上体を起こして左腕を見ると、肘下に10センチほど包帯が巻かれていた。

「………………?」

 いつ怪我したか思い出そうとするヴィヴィだったが、ふと違うことが気になる。

「お兄、ちゃんは……?」

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