この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第43章
「この朝比奈も、死ぬほど心配致しました。お嬢様――」
「…………?」
言葉を区切ってベッドサイドに膝を付いた朝比奈に、ヴィヴィは不思議そうに視線を合わす。
「どうか次に朝帰りをするときは、せめて『朝帰りする』と一言でも良いので連絡して下さい。何か事件に巻き込まれたのではないか、誘拐されたのではないかと、生きた心地が致しませんでした。それでなくてもお嬢様は人目を引く美貌でいらっしゃるのですから」
一晩中心配して寝ずに待っていてくれたのだろう。朝比奈の顔には少しばかり疲労の色が浮かんでいた。
本当に申し訳なく思ってヴィヴィは「ごめんなさい」と謝りながらも、頭の隅では(美貌……?)と言われなれない単語に首を傾げる。
「……ていうか、その言い方だと、連絡すれば『朝帰り』してもいいの?」
ヴィヴィがつい調子に乗って、小さく首を傾げて朝比奈に尋ねたが、
「駄目に決まっているではありませんかっ!! お嬢様はまだ、未成年ですよ!?」
とぴしゃりと叱られた。
「そ、そうだよね。変なこと聞いて、ごめんなさい。あと、心配してくれて、ありがとう」
「当然です。私はヴィクトリア様とクリス様の執事なのですから」
朝比奈はそう誇らしそうに発すると、慎ましやかな微笑みを浮かべた。
消化の良いディナーを私室で取ったヴィヴィは、クリスの部屋へと通じる扉をノックして開いた。
「クリス……入っていい?」
「ヴィヴィ! 起きて、大丈夫なの……?」
心配そうに近づいてきたクリスに手を引かれ、ヴィヴィはクリスのリビングのソファーへと座らされる。
紺色の色彩で統一され、間接照明がセンス良く灯されたクリスの部屋に入るのは、久しぶりだった。
「うん……本当に左腕以外は、大丈夫だから……」
「そっか」
「クリス……心配かけて、本当にごめんね」
ヴィヴィが隣に座ったクリスに、深々と金色の頭を下げる。クリスはヴィヴィの頭を撫で撫でしながら、
「妹の心配をするのが、『兄』の、役目だから」
と言ってのける。
「ふふ。マムと同じこと言ってる」
そう言って頭を上げたヴィヴィが苦笑すれば、クリスは「かぶったか……」と少し悔しそうに言った。