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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第43章           

「そういえば、何してたの?」

「ん? ああ……今シーズンのFPの曲、最終候補を絞ってただけ……」

 クリスはそう言うと、iPadに入れている数曲のタイトルを見せてきた。

「あ゛…………」

 ヴィヴィは自分も「やりたい曲があったら、言いなさいね?」とコーチ陣に言われていたことを思い出し、変な声を上げる。

 今年もGWを使ってロシアに振付に行くことになっているのに、今日を含めて後10日しか残されていなかった。

「ヴィヴィ……何も考えて、なかったでしょう……?」

「う……うん……」

 みるみるうちに顔面蒼白になるヴィヴィに、クリスが苦笑する。

「まあ……振付師に、全て一任して……自分に合うもの、見つけてもらうのも、いいんじゃないかな……?」

 クリスの的確なアドバイスに、ヴィヴィは大きく頷く。

「それもそうだね……。でも、ギリギリまでやりたい曲、探してみるね」

 ヴィヴィはそう言うと、これからリンクに行くというクリスに再度礼を言ってソファーを立ち、篠宮邸のライブラリーへと音源探しに行った。

 しかし直ぐに朝比奈をはじめとする執事達に見つかり、「頼みますから、今日だけでも安静にして下さい」と頼み込まれ、しょうがなく就寝した。







 4月24日(金)。

 ヴィヴィは早朝からリンクへと赴き、いつも通りの練習メニューを熟した。

 確かに擦過傷のある左腕を派手に動かすと、引き攣れるような痛みが襲ってくるが、そんなものは苦でもなかった。

(お兄ちゃんに負わせてしまった、怪我に比べれば……)

 昨夜、ヴィヴィは夢の中で何度も匠海が倒れている姿を見て、その度に叫んで起きてしまい熟睡できなかった。

 思い出すだけでも体に震えが走る。

 意識のない匠海の姿を見たとき、ヴィヴィは本当に、この世から自分の愛する人が失われたと思ったのだ。

 ヴィヴィは学校で授業を受けている間も、もしかしたらこうしている間にも匠海が急変していたりしないか、と気が気でなかった。

 何とか授業を終えて帰宅すると、出迎えてくれた朝比奈から匠海が屋敷に戻ってきている旨を伝えられた。

 ヴィヴィは3階まで駆け上がると、匠海の私室の扉を開いて飛び込んだ。

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