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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第43章           

 寝室の入り口近くに立っていた匠海の執事・五十嵐が、驚いたように制服姿のままのヴィヴィを振り返る。

「お兄ちゃんはっ!?」

 ヴィヴィは開口一番そう発すると、そのままの勢いで匠海がいるであろう寝室へと向かおうとする。

 しかしその行く手は、長身の五十嵐によって遮られた。

「……――っ!?」

「申し訳ございません。匠海様はお眠りになられておりますので」

 本当にすまなそうにそう説明する五十嵐に、ヴィヴィは泣き出しそうな表情になったがぐっと堪えた。

「そう……ごめんなさい、我が儘――」

「ヴィ、ヴィ……?」

 ヴィヴィが五十嵐に謝る声にかぶせて、寝室から微かに匠海の声が漏れ聞こえた。

 五十嵐の顔をはっと見上げると、長身の執事は寝室への入り口から退いた。

「お兄ちゃん!? 大丈――」

 ヴィヴィはそう言いながら寝室に飛び込んだが、匠海の姿を見て絶句した。

 ベッドの上に上半身を起こしていた匠海の頭には、まるでヴィヴィの咎を責めるように白い包帯が巻かれていた。 

 その場に凍りついたように固まってしまったヴィヴィに、匠海がその理由に気づいて、額にまかれた包帯を解き始める。

(お兄ちゃんっ? 何して――!?)

 ヴィヴィは匠海の突飛な行動を止めたいのに、声すらも出なかった。

 匠海は「大げさなんだよ」と苦笑して、丸めた包帯をサイドテーブルの上に放った。

「悪い、五十嵐……。暫く、ヴィヴィと二人だけに、してくれるか?」

 匠海がそう静かに断ると、ヴィヴィの後ろに控えていた五十嵐は、目礼して寝室の扉を閉めて出て行った。

「こちらに、来てくれるか……」

「お兄、ちゃん……」

 匠海が呼ぶ声に、ヴィヴィはやっとその場に凍りついてしまっていた足を動かし、ベッドの傍に寄った。

 包帯が解かれた額には、左隅に五センチ四方のガーゼが止められていた。

「すまない。ただの脳震盪で別に横になっている必要はないんだが、打撲のための鎮痛剤のせいで眠気が酷くて……」

 ヴィヴィは泣きそうな顔で、ふるふると首を振る。

「ヴィヴィは、かすり傷で済んだと聞いているけれど、本当に大丈夫?」

 匠海が心配そうに、ヴィヴィの全身を見つめてくる。

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