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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第43章
「匠海様がこのような状態の時ですが、その完治祝いも込めてお嬢様方のバーステーパーティーは予定通りに行われることになりました。お嬢様もそのおつもりで於かれて下さい」
5月1日がクリスの、2日がヴィヴィの、そして偶然にも5日が匠海の誕生日の為、毎年そのあたりに纏めて祝っているのだ。
「いつ……?」
そんなものもあったなと、ヴィヴィは適当に応える。
「5月1日(金)の夕方からです。翌日に匠海様が渡英なさるとのこともあり、そのお別れの会も兼ねるようです。お二人も翌日から振付のためにロシアに向かわれますからね」
「………………」
「お嬢様?」
黙りこくったヴィヴィに、朝比奈が心配そうにその名を呼ぶ。
「分かった、わ……」
「お疲れのようですね。もう、お休みになりますか?」
小さく微笑んだ朝比奈に、ヴィヴィは微かに頷く。
「そう、ね……」
「バスルームの用意を致します。しばらくお待ち下さい」
朝比奈はそう言って、バスルームへと消えていった。
一人リビングに腰を下ろしたヴィヴィは、瞳を細め、長い睫毛の狭間からぼんやりと虚空を見つめていた
入浴を済ませたヴィヴィは、ナイトウェアの上に薄手のガウンを身に纏い、匠海の部屋への扉を開けた。
視線の先に匠海の執事・五十嵐が目に入り、ヴィヴィは静かな声で話しかける。
「お兄ちゃん、は?」
「食事と入浴を済まされて、先ほど就寝されたところです。鎮痛剤を飲んでいらっしゃるので、眠気が酷いみたいですね」
確かにまだ10時なので、いつもの匠海なら就寝するには早い時間であろう。
「そう。お兄ちゃんのこと、診てくれてありがとう……」
「いいえ。それでは夜も更けてまいりましたので、お嬢様も早くお休み下さいね」
そう言って五十嵐は微笑むと、匠海の私室を後にした。
静かな音を立てて扉が閉められる。
「おやすみなさい……」
誰もいなくなった匠海のリビングに、ヴィヴィの細い挨拶が漏れる。
それと同時に、私室の内鍵がカチャリと掛けられる音が響く。
扉のすぐ傍にあった照明のスイッチパネルを押すと、重厚な雰囲気のリビングには暗闇が下りた。
ヴィヴィは踵を返すと絨毯敷きのリビングを抜け、匠海が就寝している寝室の扉を躊躇なく開いた。