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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第43章
音もなく開かれていく扉の先、ぼんやりとした小さな灯りがベッド上の匠海を浮かび上がらせていた。
寝室の中に入り、後ろ手に扉の内鍵を閉める。
ベッドサイドまで足音を立てないように近づくと、匠海は軽い寝息を立てて熟睡しているようだった。
額の傷には小さな絆創膏が貼られていた。
暫く匠海の寝顔を思い詰めた表情で見つめていたヴィヴィだったが、やがてすっと顔を上げると何故かウォークインクローゼットのほうへと足を向けた。
中に入り電気を点けると、目的のものを探し始める。
2分程ごそごそとしていたヴィヴィは、消灯してクローゼットから出てきた。
足音を殺してキングサイズのベッドに寄ると、羽毛布団の上掛けを少し捲る。
Ⅴネックのシャツを着ていた匠海の右手を、その中から出す。
逞しい腕は少し重く、所々打ち身による変色があった。
ヴィヴィは物色してきたネクタイを、何を思ったのかその手首にぐるぐると巻き始めた。
そして解けないように二重に括ると、ネクタイの隙間にタオル地の長い紐を通す。
それは篠宮家の者たちが好んで着る、某ブランドのバスローブの紐だった。
長さのあるそれをネクタイと結び合わせ、紐を引いてその先に拘束された匠海の右腕を引っ張る。
かなり強く引っ張ったが、匠海は起きることはなかった。
先端をベッドヘッドの柵へ結びつけると、その紐の長さが適切か確かめる。
ヴィヴィはベッドの左側に回ると、そちらも同様に匠海の腕を柵へ固定した。
これで匠海は、上半身の動きをほぼ封じられたはずだ。
「………………」
一歩引いて、ベッドの上で眠る匠海を見るヴィヴィの灰色の瞳には、まるで何かに憑りつかれた様に、昏い影が下りていた。
艶めいた唇が静かに開く。
『ああ、ヨカナーンや。
なぜお前はわたくしの顔を見てくれなかったの。
ヨカナーンや。成程お前は、神をば見ていただろう。
そのくせ、ちっともわたくしを見なかったのね。
もしわたくしを見たなら、きっと愛してくれたに違いない。
お前の美しさが慕わしい。
わたくしはお前の体が欲しい。
わたくしの渇きは酒では止まらぬ。
わたくしの飢は林檎では直らぬ。
ヨカナーンや。まあ、わたくしはどうしたらよかろうね』