この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第7章
「人は何故、婚前交渉をするのかね。カレン君――?」
化学の実習中。
風邪から完全復活したヴィヴィは、制服の上から白衣を纏い。
目を薬品から守る透明なゴーグルの柄(え)を人差し指で持ち上げながら、おもむろにそう口を開いた。
その姿はまるで、『神秘の謎を解明しようとする学者』の図だ。
「…………は?」
聞き取れなかったのか、カレンは中途半端に口を開いて、ヴィヴィに問い直す。
「聞こえなかったかね? 人は何故、婚・前――!」
大声でそう発し直したヴィヴィが言い終わるより前、
カレンが両手でその口を塞ぎ、必死に阻止した。
「なっ!? 何言ってんのよ、ヴィヴィってばっ!?」
押し殺した声で威圧してくるカレンに、ヴィヴィはさらに言い募る。
「何って、もごもご――」
しかし、また口を塞がれてしまった。
不満そうに眼で訴えるヴィヴィを、カレンがそのままずるずると引きずり、実験室の隅まで運んでいく。
「もうっ ヴィヴィったら、恥ずかしいでしょ! そんな事、公衆の面前で言うなんてっ!」
そう言うカレンの頬は、少し赤らんでいた。
「恥ずかしい……?」
「そうよ! 普通は恥ずかしいのっ。まったく……、ヴィヴィは世間知らずで、お子ちゃまだから、まだ分かんないかもしれないけどっ」
「……むぅ……」
子ども扱いだけでなく、世間知らず扱いまでされ、むっとしたヴィヴィ。
「世間知らずじゃないもんっ。婚前交渉とは、未婚の男女が性行為をすることで、イスラム教国の中には、婚前交渉を行った女性や、行ったと疑われた女性(強姦被害者を含む)が、名誉の殺人の対象となることがある、とっても危険な行為よ――!」
ヴィヴィはそう一気にまくしたてると、深刻そうに目蓋を閉じ、腕組みをして考え込む。
「……ヴィヴィ、イスラムの教え、信じてたっけ?」
カレンが慎重に言葉を選んで、質問する。
その答えによっては、発言内容を変えなければならない、センシティブな問題だから。
なのに、
「ううん」
ヴィヴィはケロッとした顔で、子供っぽく首を振って即座に否定した。
その瞬間「違うのかよっ!!」とカレンが心の中で突っ込んだのは、ヴィヴィの知るところではない。
その代り、ヴィヴィの顔を正面からボスと掌で叩くと、肩を竦めた。