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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第7章        



「人は何故、婚前交渉をするのかね。カレン君――?」



 化学の実習中。

 風邪から完全復活したヴィヴィは、制服の上から白衣を纏い。

 目を薬品から守る透明なゴーグルの柄(え)を人差し指で持ち上げながら、おもむろにそう口を開いた。

 その姿はまるで、『神秘の謎を解明しようとする学者』の図だ。

「…………は?」

 聞き取れなかったのか、カレンは中途半端に口を開いて、ヴィヴィに問い直す。

「聞こえなかったかね? 人は何故、婚・前――!」

 大声でそう発し直したヴィヴィが言い終わるより前、

 カレンが両手でその口を塞ぎ、必死に阻止した。

「なっ!? 何言ってんのよ、ヴィヴィってばっ!?」

 押し殺した声で威圧してくるカレンに、ヴィヴィはさらに言い募る。

「何って、もごもご――」

 しかし、また口を塞がれてしまった。

 不満そうに眼で訴えるヴィヴィを、カレンがそのままずるずると引きずり、実験室の隅まで運んでいく。

「もうっ ヴィヴィったら、恥ずかしいでしょ! そんな事、公衆の面前で言うなんてっ!」

 そう言うカレンの頬は、少し赤らんでいた。

「恥ずかしい……?」

「そうよ! 普通は恥ずかしいのっ。まったく……、ヴィヴィは世間知らずで、お子ちゃまだから、まだ分かんないかもしれないけどっ」

「……むぅ……」

 子ども扱いだけでなく、世間知らず扱いまでされ、むっとしたヴィヴィ。

「世間知らずじゃないもんっ。婚前交渉とは、未婚の男女が性行為をすることで、イスラム教国の中には、婚前交渉を行った女性や、行ったと疑われた女性(強姦被害者を含む)が、名誉の殺人の対象となることがある、とっても危険な行為よ――!」

 ヴィヴィはそう一気にまくしたてると、深刻そうに目蓋を閉じ、腕組みをして考え込む。

「……ヴィヴィ、イスラムの教え、信じてたっけ?」

 カレンが慎重に言葉を選んで、質問する。

 その答えによっては、発言内容を変えなければならない、センシティブな問題だから。

 なのに、

「ううん」

 ヴィヴィはケロッとした顔で、子供っぽく首を振って即座に否定した。

 その瞬間「違うのかよっ!!」とカレンが心の中で突っ込んだのは、ヴィヴィの知るところではない。

 その代り、ヴィヴィの顔を正面からボスと掌で叩くと、肩を竦めた。

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