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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第43章
ヴィヴィの腕を掴んだまま上から無言で見つめてくる匠海に、ヴィヴィは徐々に一抹の不安を覚える。
拘束されていないほうの腕を上げ、ゆっくりと匠海の頬へと伸ばした手は、兄に届くことはなかった。
ふと自分の首に感じた違和感に、ヴィヴィは不思議そうに匠海を見上げる。
最初に感じたのは、首にかかる重みだった。
そして次に感じたのは、自分の薄い喉の皮膚に食い込む――愛しい匠海の指先。
「…………?」
息を吸い込もうとするが何故か上手くいかず、肺だけが酸素を欲して上下にぴくぴくと動いては、薄い胸を押し上げる。
さすがに息苦しさを感じたヴィヴィが、匠海へと伸ばしかけていた手を震わせながら自分の首へと戻すと、そこには匠海の手が添えられていた。
首の軟骨がぐりゅっと不気味な音を立ててへしゃげる。
それによりもたらされる苦痛と、呼吸を制御されたことによる息苦しさに、ヴィヴィはくしゃりを顔を歪めた。
「……っ……ぅ……くっ……」
眼球の上にどんどん排出されない涙液が溜まり、それでなくても窺い知れない匠海の表情が、ぼんやりと靄の中に消えていく。
(ヴィヴィ……お兄ちゃんに、首、絞められてるんだ……)
やっと自分の置かれた現状をそう理解すると、混乱し始める思考の中、なんだか妙にほっとしている自分もいることにヴィヴィは気づいた。
何人たりとも、罪や過ちを犯した者には、天罰が下るのだ。
盲目的な愛に溺れたサロメには、義父の命令による処刑が。
兄を己の妄執に巻き込んだ妹には、その愛しい兄の手による制裁が――。
「………………」
(これで、良かったのかもしれない……
禁忌に手を染めてしまった自分には、この上なくお似合いな末路だ――)
薄暗いランプに照らされたヴィヴィの口元が、ふっと綻ぶ。
その唇は血が行き届かないことで紙のように白い。
ヴィヴィからは見えないけれど、匠海はこの世のものとは思えない恐ろしい剣幕で、自分を見下ろしているのだろう。
我が儘とは分かってはいるが、冥土への土産はそんな匠海の表情では嫌だった。
(ごめんね。ごめん――。
謝っても許して貰えるなんて、一つも思っていないけれど……。
お兄ちゃんを巻き添えにしてしまって……、ごめんね……)