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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第44章
4月25日(土)。
午前5時。
既に起床していた朝比奈は、いつも通り寸分の狂いもなく身支度を整えていた。
篠宮邸にある半地下の私室にて、本日もつつがなく主である双子に仕えるための準備をしている。
PCを起動し、iPadに残されていた一昨日の練習風景の動画データのバックアップを取る。
このバックアップデータは、双子が初めてスケートリンクに立った頃からの毎日の成長記録として全て保管されている。双子のファンにとってみれば、まさに垂涎(すいぜん)のお宝映像の宝庫であろう。
それが終わると双子のHPのチェック。
ヴィクトリアのHPは、4月16日の園遊会からぱたりと更新が止まっている。本人宛にマネージャーの牧野から「3日に1回の更新の厳守!!」と連絡が行っているはずだが、きっと今はそんなことをする精神状態にないのであろう。
一方のクリスのHPは、きっかり3日おきに更新されている。その内容はほぼ90%、妹に関することだが――。
その後、マネジメント会社から転送されてきた双子のファンレターをそれぞれ仕分けし、主に見せるに不適切な内容でないかをざっと確認すると、各々のレターボックスに整理する。
PCの電源を落とすと、iPadとレターボックスを持ちデスクから立ちあがる。
私室の扉側にある姿見で、黒スーツに不備がないことを確認すると階上へと向かった。
3階に上がると、まずクリスの私室に入る。
紺色の落ち着いたインテリアの室内からは、ぱしゃぱしゃとバスルームを使う音が聞こえてくる。
本当は低血圧で朝が弱いクリスだが、毎日目覚ましを5個も使い、自力で起きている。
書斎に入ると定位置にレターボックスを置き、クリスの私室から退室した。
廊下に出たところで、当家の長子にして跡継ぎである匠海に仕える執事・五十嵐にばったりと出くわした。
「おはようございます、五十嵐さん。休日ですのに、お早いですね?」
朝比奈は微笑を浮かべ、小さな声で五十嵐にそう話しかける。
匠海は休日にそれほど早起きをする必要がなく、いつも6時半位に起床しているが、今日は何かあっただろうかと朝比奈は内心首を傾げる。