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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第44章
初めて主の首に輝くそれを朝比奈が目にした時、
『綺麗なネックレスですね』
と伝えると、幼い主はとても嬉しそうに、
『お兄ちゃんからのクリスマスプレゼントなの!』
と微笑んでいた。
朝比奈の表情がさっと強張る。
(匠海様の突発的な渡英……、お嬢様の首のこの不可解な痣……、朝帰りに、階段からの転落事故……。いったい何が起こっている……?)
「………………」
主の顔を見下ろしながら朝比奈が思考を巡らせていると、ヴィクトリアが小さく身じろぎした。
長い睫毛を湛えた瞼がゆっくりと開かれる。
その中から現れた灰色の瞳は眩しそうにすぐに細められたが、やがて何度か瞬きを繰り返して開かれた。
「お嬢様……ご気分は如何ですか?」
「……■■■■」
「はい?」
ヴィクトリアはぼうとしながらも何か唇を動かして声を発したようだったが、朝比奈には息が漏れる音としてしか聞き取れなかった。
もう一度口を開いたヴィクトリアだったが、ごほごほと苦しそうに咳き込んだ。
「水を取ってまいります。お待ち下さい」
朝比奈はそう言って、リビングにある冷蔵庫までミネラルウォーターとコップを取り寝室へと戻ってきた。
しかし、ベッドの上の主は先程までは紙のように白かった顔を、今度は真っ赤にして苦しそうに喘いでいた。
「お嬢様!?」
朝比奈はベッドサイドに水とコップを置くと、主の頬に触れてみる。
そこからはグローブ越しでも分かるほどの熱が伝わってきた。
「なぜこんな急に――?」
朝比奈はそう驚きの言葉を漏らし、また体温計をヴィクトリアの脇にセットした。アラームが鳴ると同時に取り上げると、そこには38.5度と表示されている。
数分前から一気に4度も体温が上がってしまった主の脇とそけい部から湯たんぽを取り外した朝比奈は、再度携帯電話を発信する。
「朝比奈です。すみません。今度は氷嚢を用意して下さい。大至急!」
そう言って電話を切った朝比奈は、今度は違う番号に電話をした。
「篠宮家の執事、朝比奈です」
「おい~……、まだ、6時にもなってないじゃないか……。どうかしたか?」
電話の相手、篠宮家の主治医は第一声を不機嫌な声で発したが、すぐに仕事モードに切り替えてくれた。