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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第44章
朝比奈が数分前からのヴィクトリアの容体を伝えると、主治医は直ぐに駆けつけると言って電話を切った。
「一体、どうされたのですか?」
そう言いながら寝室に現れたのは、先ほどと同じ新米の執事だった。
「わかりません。急に4度も熱が上がりました。今、主治医に連絡をしたところです」
朝比奈は手短に答えると、受け取った氷嚢をヴィクトリアの両脇に挟もうとして、手が止まった。
(確かに体温を下げるには脇は動脈が通っているから適しているが、また、下がりすぎてしまったら……?)
頭の中を一抹の不安がよぎり、朝比奈はヴィクトリアのおでこに氷嚢を乗せた。
「本当に……どうしてしまわれたのでしょう……」
双子が小さな頃から仕えてきた朝比奈は、双子の体調等は熟知しているつもりだった。
その朝比奈がそう弱気な言葉を口にして途方に暮れた表情を浮かべるのを、新米執事は驚いたように見つめていた。
結局すぐに駆けつけてくれた主治医が診察しても、ヴィクトリアの急激な体調変化の理由が分からなかった。
「嬢ちゃんの、この首の痣は、なんだ?」
「それが、私にも分かりませんで……」
主治医が首の包帯を解き朝比奈に質問するが、何も分からない朝比奈もそう答えるしかない。
「こりゃあ、指の圧迫痕に見える……一体、誰がこんなことを」
「………………」
朝比奈もこの痣を見た時、直感的に首を絞められた痣だと感じた。一瞬の躊躇の後、朝比奈が口を開く。
「お嬢様の意識が戻られたら、私が相手を聞き出し、旦那様にお伝えします……ですので――」
「わかった。首については、わしは何も言わんよ……」
何か深い事情があると悟ったのか、顎鬚を指先で撫でながら思案していた主治医は、それ以上追及してこなかった。
内出血が早く治るよう塗り薬を塗布し、包帯を巻きなおし寝室を後にする。
「こんな休日の早朝から、ご迷惑をお掛けしました」
礼をする朝比奈の様子を、主治医がじっと見つめながら口を開いた。
「……朝比奈も、ちゃんと休養を取れよ? ニンニク注射でもしてやろうかの?」
「では、次の機会にお願い致します」
朝比奈はそう言って苦笑すると、深くお辞儀をして主治医を見送った。