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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第44章
「お嬢様……■■■■?」
朝比奈が何か問いかけてくる声がする。
けれどヴィヴィの意識はそこでまた混濁し始め、暗い闇の中に引き摺り込まれるような気持ち悪さの中、意識を手放した。
次に意識が戻ったのは昼過ぎだった。
頭痛は綺麗さっぱりなりを潜めていたが、頭の中に紗が架かっているかのように、うまく思考できない。
体温も平温に戻り、両親やクリスが入れ替わり立ち代わり様子をみに、ヴィヴィの寝室を訪ねてくれる。
「ヴィヴィ……■■■■?」
「どうして、■■■■なんだい?」
「大丈夫……■■■■?」
三人が心配そうに自分を覗き込んで言葉を掛けてくれるのに、会話の肝心なところが聞き取れず、それは鼓膜を震わすだけで言葉として言語野へと伝わることはない。
『大丈夫。心配かけて、ごめんなさい』
その言葉を、心配してくれる人達に対して何度も繰り返す。
それしか今のヴィヴィに出来ることはなかった。
3人は明らかにヴィヴィがおかしいことに気づいている様子だったが、病み上がりのヴィヴィを慮(おもんぱか)ってか、追求することなく優しく接してくれた。
いつの間にか眠ってしまっていたヴィヴィは、夕方に目を覚ました。
夕方から夜に掛け、ヴィヴィはベッドの上でうつらうつらとしながら、匠海のことを考えていた。
匠海はあの夜、ヴィヴィが苦痛からの解放と引き換えに強制的に与えた快楽に、必死に抗(あらが)っていた。
ヴィヴィは、今の自分が持っている女としての武器を全て使った。
けれど匠海は、何度ヴィヴィの中に射精しようが、絶対に自分を女として見ようとしなかった。
完全なる敗北だ……自分の。
敗北――ということさえ、おこがましいかもしれない。
匠海は最初から『妹』であるヴィヴィの恋心を取り合わず、土俵に上がることすらしなかったのだから。
結局は、最初からずっとヴィヴィの独り相撲だったのだ。
そして自爆するだけならまだしも、最愛の兄をもう少しで犯罪者にしてしまったかもしれないという、失態まで犯してしまった。
一瞬、脳裏に手錠を架けられ警察に連行される匠海の姿がよぎったが、あまりにありえなさすぎてすぐに打ち消す。