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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第44章
「………………」
ヴィヴィの心にふっと疑問が浮かぶ。
(お兄ちゃんは、どうして自分を手にかけなかったのだろう――?)
警察に捕まるのが嫌だった?
人殺しをしたくなかった?
咄嗟に私の存在をこの世から消してしまおうと思った、ただの一瞬の気の迷い?
ヴィヴィはすっと瞼を閉じる。
もしかしたら全て合っているし、全て間違っているのかもしれない。
優しい匠海のことだ。
殺生なんて出来る筈もないだろう。
けれどその一方で、首を絞められているときにも感じた、匠海の『過ちを許さない潔癖さ』をもってしてなら、手を汚してしまいそうな危うさも感じる。
ヴィヴィは、匠海が今何を思っているか、想像してみる。
妹の容体を心配し、自分のした行為に怯えているだろうか。
それとも近親相姦を強要し、自分本位に愛情を押し付けてきた妹から離れられ、せいせいしているだろうか。
「………………」
考えてみても分からない。
兄の考えていることが分からない。
けれど、たった一つだけ、ヴィヴィにも分かることがある。
自分の犯したこの行為のせいで、兄の中では、自分は殺す価値さえ見出せないほど、取るに足らない存在に成り下がったのだ。
(だからもう……私はお兄ちゃんの『妹』ですらもない――)
寝室の扉が開かれる音がして、ヴィヴィは瞼を上げると、ゆっくりと視線をそちらへと移した。
「お嬢様。おかゆをお持ちしました」
朝比奈がそう言いながらヴィヴィのいるベッドへと近づいてくる。
「体温は一応平熱に戻りましたが、これを召し上がったら無理せずにお休みくださいね」
ヴィヴィはゆっくりと上半身を起こすと、朝比奈に視線を移し困惑の表情を浮かべた。
主の様子に朝比奈が不思議そうに口を開く。
「お嬢様? どうし――」
「ひどい顔……」
朝比奈の言葉を遮るように、ヴィヴィはそうぼそりと呟く。
それくらい朝比奈の顔には隠しおおせていない疲労が浮かんでいた。しかしその言葉に朝比奈は小さく肩を竦めた。
「寝込んでいらしゃるお嬢様に言われても、困ります」
そう苦笑した朝比奈が、上掛け越しにヴィヴィの足の上におかゆを乗せたトレイを置いた。
「朝比奈……明日から2日間、休暇を取りなさい」