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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第44章         

「お嬢様?」

 今までなかった命令口調でそう言うヴィヴィに、朝比奈がその表情を覗き込んでくる。

「ここ最近……私のことで振り回して、ごめんなさい。もう、大丈夫だから」

 そうだ。ヴィヴィが朝帰りして匠海が階段から落ちて入院した日から、朝比奈はずっと精神的にも肉体的にも不安定だった自分に付き添い、その一方クリスの執事も熟してきた。

 こんな顔をさせるまで気づいてあげられなかった自分は、主として失格だ。もう本当に自分に嫌気がさす。

「私は大丈夫ですよ」

 朝比奈はやんわりとヴィヴィの申し出を断ってきたが、ヴィヴィは譲らなかった。

「命令よ。ちゃんと休んで」

「お嬢様……」

「休暇を取らないなら、私これ、食べないわよ」

 自分の執事を困らせたいわけではないが、ヴィヴィがそこまで言わないと、朝比奈は休暇など取り合わないだろう。

「で、出勤してきたら、またこき使ってやる」

 そう可愛くないことを言って、朝比奈を見上げる。

「お嬢様には敵いませんね……。畏まりました。覚悟しておきます」

 朝比奈はそう言って微笑むと、トレイに置かれていたレンゲをヴィヴィに持たせた。

 大人しく食事を終えたヴィヴィからトレイを受け取った朝比奈は、しばらくして戻ってきた。

「では休暇を頂く前に、一つだけ確認を宜しいですか?」

「なあに?」

「5月1日のバースデーパーティーの飾りの薔薇ですが、最終的にこちらにいたしますが、よろしいでしょうか?」

 兄妹3人の為の誕生日会だが、その会場の飾りつけは、やはり女の子であるヴィヴィの意見を反映させたいのだろう。朝比奈が見せてきたのは、真紅の薔薇で飾り付けられた屋敷の絵コンテだった。

 とても素敵だと思う。金曜の夜に行われることもあり、夜間の照明に映えそうな……けれど、

「……お兄ちゃんに、決めてもらってくれる?」

 そう言ったヴィヴィに、朝比奈が躊躇しながら返す。

「お嬢様は昨日寝込まれておられましたので、お伝えしておりませんでしたが……」

「…………?」

「匠海様は昨日、急遽渡英されました。パーティー当日も、帰国される予定はないそうです」

「…………そう」

 ヴィヴィの視線が朝比奈から外れ、上掛けが掛けられた自分の下半身へと下りる。

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