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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第44章
(なんとなく、そんな気はしていた……
この屋敷からはお兄ちゃんの気配、全く感じられない……)
「もしご希望がないようでしたら、こちらで適当なものを選ばせて頂きます」
黙り込んでしまったヴィヴィの様子を注意深く見つめていた朝比奈が、そう言ってこの話題を終わらせて寝室から出て行こうとする。
「白……が、いいわ……」
朝比奈の後ろ姿に、小さな声が掛けられる。ゆっくりと振り向いた朝比奈はヴィヴィの言葉が聞き取れなかったのか「お嬢様……?」と問いかけてくる。
「薔薇の品種は何でもいい、白ければ……手配できる?」
今度は真っ直ぐに朝比奈に視線を合わせて口を開いたヴィヴィに、朝比奈は心得て頷く。
「ええ。勿論です。お嬢様にぴったりの白薔薇に心当たりがあります」
お任せくださいと微笑むと、朝比奈は寝室から出て行った。
一人ベッドの上で佇んでいるヴィヴィの両手が、ぎゅうと上掛けを握りしめる。
「………………っ」
兄が、いなくなった。
殺し損ねた自分を置き捨てて。
まるで狂ってしまった妹から逃げ出すように。
まるでもう片時も傍に居ることが我慢ならないように。
ヴィヴィの灰色の瞳から、ゆっくりと燈火(ともしび)が消えていく。
ならば自分は、兄が自分に求める役割を果たすだけだ。
死者に手向ける、真白の薔薇。
そう、私の16歳の門出に相応しい。
私はあの日、兄の手でこの世から葬られたのだから――。