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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第45章         

 目の前のクリスはオフシーズンだというのに超が付くほど絶好調で、軽々と4回転ジャンプを決めて見せている。

「はは。いいライバルだな」

「はい。本当に」

 そう言ってサブコーチに笑いかけると、ヴィヴィはまたジャンプの修正を始めた。






 5月1日(金)。

 その日の夕方から開催された双子のバースデーパーティーには、クラスメイト全員は勿論、リンクメイトや振付師をはじめとするスケート関係者等、様々な客が足を運んでくれた。

 ヴィヴィはレースをふんだんにあしらった黒いドレスに身を包み、首の包帯を外すと黒いリボンのチョーカーを巻いた。

「………………」

(お兄ちゃんの痕……とうとう消えちゃった……)

 大きな姿見の前、鏡の中の自分の喉元に、黒いレースのグローブに包まれたヴィヴィの手が添えられる。

 ふと小さく息を吐き出したヴィヴィには、その後ろで一部始終を朝比奈が見詰めていたことに気付かなかった。

 仮装したクリスと連れ立って階下に降りると、そこには沢山の仮装した客人がいた。

 ヴィヴィはサブコーチや柿田トレーナー、牧野マネージャー、栄養士、東京近郊にいる先輩スケーターに挨拶を済ませると、同年代のスケーターやクラスメイトと騒ぎまくった。

「ヴィヴィの仮装テーマは?」

「う~ん、『死霊のはらわた』?」

 その言葉通り、黒のゴスロリドレスに蜘蛛の巣を纏ったヴィヴィは、首から胃の形をした白いバックをかけているという出で立ちだった。手には腸を象った長い縫いぐるみを持ち、ぶんぶんと振り回している。

「わ~! クリスはドラキュラ伯爵だ」

 リンクメイトの下城舞が、クリスの出で立ちを見て感激の声を上げる。

「『ぬり壁』に、しようとしたら、執事達に『貴方は主役なんですけど!?』って、止められた……」

 確かに、パーティーの主役が灰色の壁になっていたら、会が成り立たない。

「クリス! 『お前の血を吸ってやろうか、生娘よ~』って言ってみて」

 数人の女子がきゃあきゃあ言いながらクリスに強請る。その気持ちも分かるほど、色が白いクリスの吸血鬼姿は様になっていた。

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