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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第46章
そこで言い淀んだジャンナは身を乗り出すと、目の前のヴィヴィの細い掌を、そのふくよかな両手で包み込んだ。
「けれど、今のヴィヴィには変わって欲しいから……。普通の16歳の女の子、恋に恋するような少女になってほしいから」
(え…………?)
その慈しむような声音に、ヴィヴィが恐る恐る面を上げる。
「ヴィヴィは恋に夢見る少女時代をすっ飛ばして、苦しい恋を経験した……。でも、まだ全然若い。いくらでも、やり直せる」
(やり直す……私が……?)
不思議そうに自分を見つめ返してくるヴィヴィに、ジャンナが頷く。
「眠れる森の美女……主人公のオーロラ姫は、16歳――ヴィヴィと同じなのよ。だから余計、ヴィヴィに滑ってもらいたいの」
「ジャンナ……」
それがジャンナの精一杯の励ましなのだとすぐに分かった。
きっとジャンナは物凄く怒っている。
最終的に、匠海に自分の恋心を押し付けたであろうヴィヴィを。
そして自分だけ傷ついた顔をしているヴィヴィに腹を立てながらも、それでも先に進む手助けをしようとしてくれている。
(本当に、私は周りに助けられてばかり……)
それを自覚していたからこそ、五輪の金メダルで報いたい気持ちもあったが、そんなものでは到底追いつかないほど庇護されてばかりいる。
(だから、私は滑り続けるしかない……周りの期待に応えられるように、裏切らないように――)
ヴィヴィは自分の片手を包んでくれているジャンナの手を、その上から包んだ。そして少し困ったように笑う。
「ふふ……。サロメは15歳で、オーロラ姫は16歳……。私、17歳になる来年は、何やればいいんでしょう……?」
ようやく前向きな姿勢を見せたヴィヴィに、ジャンナが苦笑する。
「う~ん、これは稀にみる難題ね~」
そう言ってヴィヴィの手をぎゅっと握って離したジャンナに、ヴィヴィは心からのお礼を言った。
「ありがとう、ジャンナ」
やり直せるだなんて、到底思ってもいない。
自分だけ楽になろうなんて、考えてもいない。
けれど、周りの期待に応えることで、自分の価値が見いだせるなら――。
ヴィヴィはそう思いながら、もう一度ジャンナに笑いかけた。