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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第46章
「しかも、自分から、立候補してね……」
とクリスが『ヴィヴィの「悪の精・カラボス」演じた事件』を説明する。
「え、そうなの? 普通、女の子ならオーロラ姫、やりたがらない? それか、せめてリラの精とか……」
ジャンナが驚いて聞き返す。
「え~、だってかっこいいじゃないですか、カラボス! 曲も振り付けも緊迫感があって、超目立つし!」
確かに悪の精カラボスは目立つ。
バレエ団によって演出は異なるが、大きく分けると、女性ダンサーが華やかに踊る場合と、男性が(おどろおどろしい老婆に扮して)女装して演じる。ただ、あまり踊らない。
そして小さかったヴィヴィは、老婆に扮して生き生きと演じきったのだ。
「ヴィヴィ、まだ覚えてるよ、振り付け!」
ヴィヴィはそう言ってソファーから立ち上がると、暖炉のそばに立て掛けてあった火かき棒を取って戻ってくる。
「『何で~、あんたらは~、私を招待しなかったんだね? きぃ~っ!! あんたの娘は~、16歳になったら~、この“つむ”に指を指して~、死ぬっ! 死んじゃうんだからっ!!』ってね?」
火かき棒を杖に見立てて、大げさな身振り手振りで表現するヴィヴィに、皆が声を上げて笑い転げる。
確か幼いヴィヴィの舞台での演技を見た、当時の両親も匠海も、同じように腹を抱えてゲラゲラ笑っていたっけ。
「あはははっ! なんで今でも振付、覚えてんの~?」と牧野マネージャー。
「面白いから、たまに一人の時、演じて遊んでたの」とヴィヴィ。
「そ、そんな一人遊びしてらしたのですか、お嬢様ったら……」と朝比奈。
「やっぱり、ヴィヴィは面白い……」とクリス。
あまりに皆が喜ぶので、ヴィヴィはその後の要望にお応えして、
「『ちょっと、ちょっと、こっちおいで。ほ~ら、オーロラ姫、これ、“つむ”。あげようか? ん? 欲しい? だ~めっ。え? 欲しい? しつこい子だねぇ、ほれっ。あ~、ほら、刺した。“つむ”刺した。馬鹿な子だねぇ。踊りまくって。ほら見たことかっ。死んだよ~、オーロラ姫、死んじゃったよぉ~!』」
と成長したオーロラ姫が“つむ”を刺さして寝てしまう場面を演じた。