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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第47章
擽ったそうにクリスが身を捩るのが面白くてそれを繰り返していると、クリスはいつの間にか眠ってしまった。それに気づいた朝比奈が、ブランケットを持ってきてくれた。
「ありがとう」
礼を言ってクリスに掛けてやる。すーすーと気持ちよさそうなクリスの寝息を聞きながら、時折届く薔薇の微かな香りをかいでいると、ヴィヴィの心が少しだけふっと楽になった。
このところ、匠海のことを考えない日がなかった。
英国で心許せる友人は出来ただろうか。
仕事は順調だろうか。
留学準備は上手くいっているだろうか。
心配をし始めたらきりがないが、きっと器用な匠海のこと。すべて滞りなくうまくいっているのだろう。
「………………」
(傍には居られないけれど……まだ戸籍上では、兄妹でいさせてくれるから……)
「兄妹、か……」
ヴィヴィの心の声が、薄い唇から微かに洩れる。ワンピースの膝の上で、ヴィヴィに体を預けて無防備に眠るクリスを見下ろす。
「弟って、こんな感じなのかな……」
そう言って頭を撫でると、いつの間に起きたのか、目を瞑ったままのクリスが、
「『兄』、ですけど……」
と小さな声で抵抗してきた。
長い睫に覆われた瞼を閉じたままのクリスの頬を、ヴィヴィは指先で軽く摘まむ。
「一日だけ、でしょ?」
面白そうにそう挑発したヴィヴィの手を、クリスが掴んだ。
昔は同じ大きさだった手も、今ではクリスのほうが大きい。
「それでも、お兄ちゃん、です……」
少しだけ唇を尖らせてそう反論したクリスが可愛くて、くすくすと笑いが止まらないヴィヴィだった。