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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第47章
「アクセルを回避するのも、選択肢の一つとして、入れなければ……」
「ま、ヴィヴィは他の3回転ジャンプが全て好調だから、アクセルなくても勝てるよ」
「無理して入れても、両刃の剣だからな~、アクセルは……」
コーチ達チームスタッフが『3回転アクセルを回避する』方向で話を進めていくのを、ヴィヴィは静かに聞いているしかなかった。
結局、話は牧野マネージャーが所属しているINGを通じて、映像分析をしてくれる機関や大学を探してみるということで取り敢えずの決着をみた。
それぞれが席を立つ中、ヴィヴィが座ったまま小さな声で「あの……」と皆を呼び止める。
「私は……試合直前のギリギリまで、アクセル入れる方向で、頑張りたいです」
今シーズンの初戦であるジャパンオープンは、10月始めだった。まだ3ヶ月程、猶予は残されている。
ヴィヴィのその発言で、ミーティングルームがしんと静まり返った。しかしそれも一瞬のことで、皆が笑顔でヴィヴィを見返してきた。
「勿論よ。一緒に、頑張りましょう」
皆を代表してそう言ったジュリアンに、ヴィヴィは小さく頷いて返した。
(あ~あ……迷惑、掛けたくないのに……)
ミーティングルームを出てストレッチルームへと向かう廊下、ヴィヴィはそう心の中で思い、小さく嘆息する。
自分が完璧であれば、周りに迷惑をかけないのに。世の中そう思い通りには、うまくいかせてくれない。
そう自分を責めてとぼとぼと歩いていると、「ヴィヴィ!」と後ろからジュリアンに呼び止められた。
「何ですか?」
振り向いた廊下の先のジュリアンが、何故か満面の笑みでヴィヴィの元へと駆けてくる。リノリウムの床がキュッキュと音を立てて響く。
「さっき連絡があったのっ、羽田に着いたって!」
「へ……?」
(何が……?)
喜色満面にそう言うジュリアンに、ヴィヴィは全くもって何のことか分からず、間抜けな声を出す。
「もうっ! 匠海よ、匠海っ! 決まってるでしょう?」
「………………」
「あの子ったら、事前に連絡くれれば、迎えに行かせたのに~っ! て言うか、私が迎えに行ったのに!」