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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第47章
「あれ、ヴィヴィ。どうしてここにいるんだ?」
更衣室へと向かうヴィヴィの後ろから、そう声をかけてきたのはサブコーチだった。
「あ……」
ヴィヴィは咄嗟に、先ほどカレンに買わされたミニスカートが入った袋を、背中に隠す。
「今日は上のお兄さんが帰国したから『ディナーだ~っ!』てコーチ達、帰てったけど?」
「ああ、それ、もう終わりました。で、ヴィヴィはちょっと滑り足りなかったので、戻ってきたんです」
ヴィヴィは適当にそう答えると、ニコリと微笑む。
「そうか。練習熱心なのもいいけれど、ちゃんと体を休めろよ?」
「はい。ありがとうございます。サブリンク使っていいですか?」
「いいよ。もうちびっこ達、帰るから」
サブコーチはそう言うと、後ろ手を上げて去って行った。
ヴィヴィは入念にストレッチを行うと、サブリンクへと立った。
一通りジャンプやスピンの練習をすると、SPの振り付けを確認する。
ノルウェーに伝わる民話に題材をとったイプセンの戯曲に、グリーグが作曲した劇音楽「ペール・ギュント」。
ソルヴェイグという純情な婚約者がいながら夢想を追って、世界放浪の旅を続ける主人公ペールの人生を描いた物語。
一攫千金を夢見、次々と女性を追いかけ根無し草のようにさすらう主人公ペール。
波乱万丈の後、故郷でひたすら帰りを待ちながらすっかり年老いた元婚約者ソルヴェイグのもとへ帰り、彼女が歌う子守唄を聞きながら静かに永遠の眠りにつく。
ヴィヴィがSPで使う「山の魔王の宮殿にて」は、旅の途中ペールがさまよった山の中で、そこに住む魔王の娘の求婚を断ったため魔王に殺されそうになり、命からがら逃げ去る場面での音楽だ。
最初の静かな入りからは信じられないほど、徐々にオーケストラの音量が大きくなり速度も増してそのままフィニッシュする。よってプログラムも殆ど休みのないキツイものだった。
(とにかく、今はスピード重視で!)
ヴィヴィはそれを心に刻むと、序盤のトリプルアクセルと飛ぶ。軸がぶれて体制を崩し氷に叩き付けられるが、すぐに立ち上がって曲に喰らい付いていく。