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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第47章
2分50秒の中で、アクセルジャンプ、ステップからのジャンプ、ジャンプコンビネーション、フライングスピン、レイバックスピン、スピンコンビネーション、ステップシークエンスという7つの要素を熟すSP。
その中のどれかを大きくミスすることは、劇的に点数が下がることを意味している。
(絶対、3回転アクセル、決めてやる――っ!!)
ヴィヴィはやけくそ気味に、SPの振り付けを2回通した。結局決まらなかったが。
その10分後、ヴィヴィはぐったりとフェンスに上半身を凭れかけると、足を氷の上に投げ出した。疲労した体に、パンツ越しの氷の冷たさが気持ちいい。
「あ゛~……キツい……」
顎を上げて天井を見上げるヴィヴィの細い喉から、弱音が出る。
修正点を上げるとキリがない。
小さい頃、年を重ねるごとに自分のスケート能力は、進化し続けると思っていた。
しかし弱冠16歳にして、それは間違いだと気付く。
今の自分は、一進一退を繰り返してばかりだ。
「………………」
ゆっくりと顎を下げて足元に視線を移す。
5月に履き替えたばかりの白いスケート靴の先端は、すでに沢山の傷が付いている。
(あれだけ、こけまくってたら、ね……)
頭を支えるのさえ億劫で、ヴィヴィはがくりと首を落とす。
「なんだ、まだいたのか?」
ふいに上から降ってきた声にゆっくりと顔を上げると、サブコーチがフェンス越しにヴィヴィを見下ろしていた。
「もう、23時だぞ。みんな帰るし、ヴィヴィも帰れ」
「あ~……でも私、まだ1時間半位しか滑ってないので、24時までやっていきます」
ヴィヴィはゆっくりと腰を上げると、サブコーチの前に立った。
「お前……焦る気持ちも分かるけれど、無理したら身体、壊すぞ?」
「分かってます。柿田トレーナーに、口酸っぱく言われてますし」
そう言ってニッと笑うと、サブコーチは苦笑する。
「じゃあ、本当に24時で帰れよ? メインリンク空いたから、そっち使えば?」
「あ、そうします。お疲れ様でした」
「お疲れさん」
サブコーチが帰っていく背中を見送り、ヴィヴィはお尻に付いていた氷の屑を手で払った。