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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第47章
メインリンクへと移る前に、カフェの自販機でホットココアを買って暖をとる。
昼に食べたものをすべて戻してしまった胃に、甘い液体が染み渡る。
(お兄ちゃん……今頃、家でゆっくり、してるかな……)
ヴィヴィは客席側からリンクのフェンスに凭れ掛かり、ぼうと手の中の茶色い液体を見つめて思う。
「………………」
帰って来てくれて、本当に良かった。
ヴィヴィはもしかしたら匠海から、家族という大切なものを奪ってしまったのではと思っていた。
自分が居るだけで、日本の実家に帰るのが嫌になるであろうし。
けれど匠海は帰ってきてくれた。
自分が家にいなければ、匠海は長く日本に滞在してくれるだろう。
ヴィヴィは少しだけホッとすると、ココアを飲み干し、リンクへと戻った。
固く白い氷の上に立ち、う~んと伸びをする。
FPの振り付けを確認しようと思ったが、思った以上に身体が疲労していた。
(カレン、本当に5時間もショッピングするんだもの……)
ヴィヴィはそう思って肩を竦めると、オーディオセットを操作して、FPの眠れる森の美女を流した。
第一幕の薔薇のアダージョから始まり、第三幕のオーロラ姫のヴァリアシオン(ソロの踊り)、そしてラストのアポテオーズという曲の編成。
ジャンプは全て1回転で飛び、振り付けを確認していく。
オーロラ姫のヴァリアシオンは特に有名で、数多くのバレエのコンクールでも使われている。
ヴィヴィもバレエのレッスンで、このソロを床でも練習していた。
スケート靴の重さで膝が曲がらないよう注意しながら、美しい調べに柔らかな動きを重ねていく。
肩の高さに延ばされたアームス(腕)は、まるで羽のように重力を感じさせない。
ポンポンとその場でバレエのようにステップを踏むと、滑り出す。
(ジャンナは『王子様と踊っているように』と言ってたけれど……、
ヴィヴィの王子様はもう、いないから……。
だから、夢の中で憧れの王子様と滑っている。
楽しい夢を見続けている。
そう思って滑ろう……)
心を落ち着けて滑るうちに、徐々にそう思えるようになり、ヴィヴィは『自分とは違いすぎる』と思っていたオーロラ姫に少しだけ近づけた気がした。