この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第47章
フィニュッシュのポーズを取り、上げていた両手を下す。
ふうと小さく息を吐き出し、腰に両手を当てて息を整えながら、先ほどの修正点を頭の中で思い返す。
(ビールマンの入りでしょ……、バレエジャンプでしょ……、ステップ中盤と、最後のジャンプの入り……)
ほとんど全部駄目だな……と心の中で突っ込みながら、ぼさぼさになった髪を解き、手ぐしで整えて結い直す。
一番上手くいかなかったストレートラインステップを見直そうと、滑り出したヴィヴィの鼓膜に、小さな物音が届く。
こつり。
こつり。
こつり。
床を革靴の底がゆっくりと踏む、固い音。
その音がしたほうを振り向くのを、ヴィヴィはためらった。
惰性で氷の上を滑っていたヴィヴィの体が、リンクの端付近で止まる。
次いで聞こえてきたのは、大きく深い溜め息。
「………………っ」
ヴィヴィの華奢な肩がびくりと震える。
後ろを振り向きたくない。
振り向けない。
だって、きっと、そこにいるのは――。
「ヴィクトリア」
少し低くよく通る声が、リンクに響く。
紛れもない、兄の匠海の声。
「………………」
(どう、して……)
ヴィヴィの身体が小刻みに震えだす。
「こっちを向け……」
背を向けたままのヴィヴィに、匠海がドイツ語で命令する。
また小さく震えたヴィヴィだったが、匠海の言うことに逆らえる筈もなく、ゆっくりと振り返った。
ただし、視線は落としたまま。
怖くて匠海の顔を見れない。
馬鹿な自分を蔑む表情以外、絶対にそこにはある筈もない。
それが痛いほど、分かっているから。
「お前には、本当に、驚かされる……」
言葉と共にくっと洩らされたのは、苦笑を通り越した侮蔑の嘲笑。
「氷の上に乗ると、『魂の浄化』でもされるのか?」
「………………」
「俺を見ろ、ヴィクトリア」
視線を逸らすことさえ許さない。
まるで、自分のやったことをその目を見開いて、耳をそばだてて目の当たりにしろという風に。
ヴィヴィの俯いていた顔が、ゆっくりと上げられる。
そしてその視線の先、大分離れたところに匠海は立っていた。